Polaris
【月の綺麗な夜だから】
月
コーヒー
上がる
な感じで。
いってらっしゃいませ。
夜も更けた時間帯。
鳴上は今日の復習と明日の予習を済ませ、
一通り明日の準備も済ませた所で
何かぼんやりと頭をもたげる予感を感じた。
こういうときの予感は外れないんだ…
独りごちると、椅子から立ち上がり
まるで呼ばれたみたいに窓の外を見た。
「陽介、何してるんだ?そんなとこで。」
「え?!うわっ!!もうバレた?!」
鳴上の部屋の窓の下。
つまりは堂島家の前の通りに花村は立っていた。
立ち昇る白い吐息が綺麗だった。
バレバレだよ。
そう笑うと不服そうな表情が帰って来る。
それが面白くて鳴上は続けざまに言った。
「何?ス●ーカー?」
「違う!笑顔で聞くな!!」
白い息をもくもくと昇らせて
花村が叫んだ。
鳴上は口元に人差し指を当て花村を制止すると
小声で『何か用があるのか?』と尋ねた。
花村は辺りを見回し、少しだけバツの悪そうな様子で
首を引っ込めると、俯きながら答えてくる。
「な、なんでもねえよ…」
「そう?」
「ああ…ちょっと疲れたから休んでただけだ。」
「人様の家の前で?」
「うううう…すみません…」
うなだれる花村。そんな花村を笑顔で苛める鳴上。
なんだか段々と楽しくなってきてしまった鳴上は
窓の手すりに手をかけると、そのまま会話を続けた。
「バイト帰りか?」
「そう…。」
「ふーん」
「な、なんだよ…」
思ったより早く見つかってしまったのが
悔しかったのか、花村は俯いたまま
あまり顔を見せてはくれない。
鳴上はその姿に、呼びかけるように言った。
「上がってくか?」
「え?………いいのか?」
「いいよ、陽介なら。」
「…………………いや…やっぱ止めとく…」
「ん?なんでだ?」
確かに上がれたら…
なんてちょっと期待して来た。
でも、誘われた通り
このまま上がってしまったら
なんだか負けの様な気がして…。
そんなことを考えているなんてお見通しの鳴上。
折角誘ったのに…
そんな言葉がこだまして、
鳴上の中でちょっとしたアクションを起こした。
鳴上は少しだけ視線を逸らすと
花村へと少しだけ声色を変えて呼びかけた。
「あのさ…陽介、お前はなんで陽介なんだ?」
「は?!」
「私のことを愛しているなら、どうかこのバルコニーを上がってきて下さい」
「は???は?????は?????」
唐突過ぎて何が何やら…
まったくウチのリーダーは…
と思った所でふと気がつく。
バルコニー…
ん?もしかして、このフレーズは…
「アホか!!なんでロミジュリ?!」
「やっと分かったのか…
セリフ、おぼろげだったから適当だったかも……
まぁ、陽介が素直に上がって来ないからかな?」
「は?!え???」
なんだそれ?意味が分からない。
よく見ると、なんだか
まったく余裕の無い様子の鳴上が居た。
いつもいらない所まで余裕がありそうなのに、
たった今、余裕なんて全部失くしてしまった様な様子で
見つめ返してくる。
「仮死の薬…飲むかもな…」
「ば、バカか!!」
「だって上がってきてくれないんだろう?」
「そ、それでかよ…!」
「それだけで充分だ」
「な…………っ」
小さく『会いたい』と呟く声が聞こえたような気がした。
その発音だけで倒れられる自信があるくらい
それは破壊力があった。
「陽介、早く来い。来てくれないとどうなるか分からない…」
「ど、どうなるって…何が?」
「さあ?」
そう言って手を差し出して、緩むように笑った。
いつもそう…そうやって笑う姿に、
それに一番弱い。
口には出さないクセに、
全部欲しいと懇願するような表情。
ああ…もう俺の負けだ。
花村は小さく溜息を吐くと
一歩下がって呼吸を整える。
「ジライヤ…っ」
花村が周囲を確認して小さく呼ぶと、
ジライヤが月の光を浴びて浮び上がる。
「…すごい…綺麗だ…」
その姿の美しさに鳴上は自然と
感嘆の声を上げた。
ジライヤはそのまま花村を腕に抱えると、
音も無く二階の屋根へと駆け上がる。
花村はジライヤが着地したと同時に
その腕にぶら下がり、瓦を伝いながら滑り降りると
鳴上の部屋の窓へと辿り着く。
そこには勿論、鳴上が待っていた。
「いらっしゃい………お待ちしておりました」
「……………」
「何?なんか不服そうだな?」
「別に………」
手を貸して、部屋の中へと下ろす。
部屋の中は暖かくて、すこしホッとした。
適当に座っているように言われた後、
鳴上が階下からコーヒーを淹れて持ってきてくれて、
それを飲むと更に体中が落ち着いた気分になった。
「そもそも…陽介、お前が顔を見せるから悪い。」
「な、なんだそれ?」
何も音もない部屋で、
二人向かい合ってコーヒーが並々と注がれた
マグカップを持って、ぶつぶつと話し込む。
こうして来たことで、
もう本音なんか丸見えなのに、
なかなか本当のことを言わない花村に
業を煮やした鳴上が呟いた。
「欲しくなるだろ?目の前にぶら下がってると」
「っ……お前、もしかしてバカなんじゃないのか?」
鳴上からの言葉に
真っ赤な顔をして花村が言う。
鳴上は、その言葉に一瞬だけ
心外だという表情をしながらも、
少し考えて頷く。
そして、柔らかく笑うと答えた。
「ああ…そうかも」
「え?」
「俺の方が馬鹿なのかもな…」
そう答えた表情が、なぜだかとても儚く見えて、
花村はふと先程の窓辺の言葉を連想させられた。
手を伸ばし、欲しいと言葉に出さずに懇願する。
その姿はとても綺麗で悲しげで。
花村は咄嗟にその白い手を取り言った。
「か、仮死の薬なんか飲ませるか!」
「は?????ああ…それは………とゆーか、
なんで言葉と場面が一致しないんだ…陽介は…
……もう少し考えて喋りなさい」
「う、うるさいっ…」
花村からの唐突過ぎる言葉に、
今度は鳴上が驚く番…少し呆れながら。
何を言っているのかを理解するのに
少しだけ時間が掛かりながらも
鳴上は糸を辿りながら会話を続けた。
「本当、悪かったって…変なこと言って…もう二度と言わないから」
「一緒に生きて、一緒に終わるんだ!」
「は????陽介???」
必死の形相。
なんだそれ?聞いたことも見たことも無いぞ?
そんな途方も無い奇跡。
どこから沸いてくるんだ???
そう考えていると急に可笑しくなって来てしまって、
鳴上は苦笑しながら言った。
「陽介………なんでそんな絶対無理なコト平気で言えるんだ…」
「いいだろ!別に!」
繋いだ手を離そうとしない花村の姿に
鳴上はただ見つめるしか出来なくて。
それと一緒に花村のまっすぐ
見つめてくる瞳もとても綺麗で。
その様子を見ていると
花村ならそれが実現出来そうな気さえしてくるのが
本当に不思議で仕方なかった。
「すごいよな…陽介は」
「え???」
花村の様子に再び緩むように笑うと、花村の額へと
自らの額を合わせ、目を閉じて言った。
「陽介のさ、そうトコが好きなんだろうな…俺……」
「ば、ばばばばばば…バカか…っ」
「はは…」
目が合う瞬間に二人笑い合った。
花村がふと目を逸らすと、
顔を真っ赤に染めて言う。
「その…えっと…………今日はお前に会いたくて来た…正直な所。」
「………………そっか…」
「な、なんだそれ…気に入らないのか?」
「いや…すごい嬉しい」
鳴上が崩れるように微笑んだ表情に、
花村はさらに赤面してしまう。
空になったマグカップを机へと置き
そのまま二人で窓辺へと腰掛けると、
同じように月を見上げた。
「すげー月が」
「ああ…綺麗だな」
明るい月が煌々と全てを照らして、
何もかもが輝いて見えた。
お互いに居たことのある都会のネオンには
派手さでは及ばないだろうけれど、
どちらかというと、この月の光の方が好きだった。
「あ…そーいや…どうやって帰るか…」
階下の様子を気にする花村に、
鳴上はにやりと笑うと答えた。
「さあ?帰らなくてもいいんじゃないか?」
「え?ええええ?!いや…
それはさすがにマズイとゆーか……」
体全体で驚くような仕草をする花村に、
鳴上は崩れるように微笑むと言った。
「今夜はずっとこのままで」
Fin
なんだかうーん;;な感じ;;
頑張ります;;;すみません;;
月がとっても綺麗だから、遠回りして帰ろうー的な。
なんか前のに似てるな…;;;;
( ゜∀゜)=◯)`ν`)・;'.、
楽しんで頂けたら倖い。
うわ!;今気づいた;;ペルソナって
外でも出るんですかね;;;;;;ひいいいい;;
違ってたらすみません;;((;´Д`))