Polaris
【君のすべてが好きだから】
ホワイトデー創作~~
お返し
欲しいもの
言ってやらない
な、感じで。
いってらっしゃいませ。
「さ、三倍返し…ささささ……三倍…
お前という完璧超人の労力の三倍…」
「悪かった…もういいから…陽介」
堂島家の居間。
ホワイトデーのお返しは
何がいいんだ?とストレートに聞きに来た俺が
居間のTVで見た内容に驚愕した。
普通は三倍返し…
そうか…そういえばそうだったか…
つーか、無理じゃね?
お前の労力の三倍返しなんて…
いや…でも…
「いや…でもさ…お返し、ここは男として!!」
「大丈夫、俺も男だから」
たまにさ、一気に
沸点が下がるような発言するよな…お前。
眉間に皺を寄せて、
悠とTVの両方を見て溜息を吐く。
何かいいことを
思いつかないか?と考えていると
悠が俺の頭を撫でて少しだけ
心配そうに笑いかけてきた。
「陽介…あんまり考え過ぎると、知恵熱出るぞ?」
「う、うっせーーー!!出るか!!そんなの!!」
お前は俺をなんだと思ってるんだ?
まったく…
俺がぶつぶつと口の中で文句を言うと、
それに反応したのか、悠が苦笑しながら返してきた。
「どうせなら『ホワイトデーのお返しは俺!』
みたいな言葉出ないのか?」
「そそそそ、そんな恥ずかしーこと言えるわけねーだろ!」
「え?恥ずかしいのか?」
「あ、当たり前だろー!」
ビックリしたような表情。
いや…普通は恥ずかしいだろ…ソレ。
つーか、お前は恥ずかしくないのかよ…
そんな風に硬直している俺を
悠はじっと見つめてきて、なんだか意味深な
表情を浮かべると、小首を傾げて訴えかけてくる。
「俺が一番欲しいものだとしても?」
「は?????え??????」
じっと見つめてくる仕草に
俺は目が離せなくなる。
悠……俺は何かを試されてんのか?
その表情に見惚れて
バカ面下げて固まっている俺へ、
痺れを切らしたのか
悠が溜息混じりに言ってきた。
「…………そうか、俺が一番欲しいものは陽介にとって
『口に出すのも、はばかられるくらい恥ずかしい者』だったんだな…」
ショックを受けた…そんな表情。
深く深く吐いた溜息が弾けて落ちた…気がした。
「ちょ…ちが…っ……あーー!分かった分かったから!」
観念した俺がテーブルに突っ伏す。
ひとしきりじたばたした後で、俺が視線だけで見上げると
ソレを待ち構えていたのか、悠は満面の笑みで促してきた。
「はい、どうぞ」
「……………………お前…俺で遊んでんだろ?」
「滅相もない」
薄く目をを細め、にやりと笑う顔。
遊んでる…絶対にそうだ…。
嵌められた…そう思わなくも無い結果に
俺は少しだけ頭を抱えたが、
とりあえず今日は折れてやる……今日だけは…だぞ!
こんなのその場のノリでいくらだって
凌げる!凌いで見せる!!
俺を誰だと思ってる!
「そ、その…………………………………」
と…意気込んだのはいいけど
いざ口に出そうとすると、
どうにも…やっぱり…恥ずかしい。
「はい、どうぞ」
「え、えっと…………………………………………………………」
重い沈黙。
こういうのはノリで!
とか、ちょっと思った俺がバカでした…
ノリでは言えない。
その…いや…やっぱさー………
こういうのはさー……
とか、息を吸うのも忘れるくらい
考え込んでいたら、
悠が一つ呼吸をする音が聞こえた。
「陽介………………………………」
「な、なんだよ?」
真っ赤になった俺。
その様子を見つめていた悠が
如何ともし難い表情をすると、
俺の視線とソレを合わせる様に言った。
「……………コレって何プレイ?」
「だーー!違う!!つか、コレ自体が羞恥プレイだろ!!」
立ち上がり、盛大にツッコみを入れる俺を
なぜか楽しそうに悠は見上げると
右手で頬杖をついて柔らかく笑った。
「……まぁ…いいか…俺、なんか幸せかもだし…」
「は???」
「お返しが欲しくてやったんじゃないのにな…
まさかこんな真剣に考えて貰えるなんて思ってなかった」
「そ、そりゃ…お前………」
「ありがとう、陽介」
「う……ど、どういたしまして…」
そりゃ、こういうのはちゃんとしなきゃだしな。
そんな形ばかりのことを考えている俺に
悠は今度は打って変わって
まるで猫が悪戯をする前の様な
表情をしながら問い掛けてきた。
「で?どうするんだ??」
擬音にしたらワクワクって感じの
なんかもう日頃、他じゃ見ない表情で
俺へと悠がにじり寄って来る。
「ぎゃーーー!お前は!考えるのを手伝いたいのか、
邪魔したいのかどっちだ?!」
「…………………どちらかと言えば……邪魔したい…?」
あのままじゃ、なんか
色々大変なことになりそうだったので
騒ぎながらも慌てて後ずさりした俺を見て
悠が口に手を当てて言った。
「もうお前帰れ!!」
「はは……」
叫ぶ俺と、笑う悠。
いや…帰るのは俺か。
よそ様のお宅で叫ぶ内容じゃねーよな…
それでもそれ自体が楽しいのか、
楽しそうに笑うお前に
完全に調子を狂わされてる気がする。
そんなことをぐるぐる考えていたら、
悠が更に生き生きとした表情で言った。
「だって…色んな陽介が見られるじゃないか?」
「は?」
「かなりお得だ」
「は???」
「困ってる顔なんかすごくいい…」
「………このドS…」
なんかもう…俺、どうしてコイツが
好きなんだろう……
つーか、どこが好きなんだろう…
『困ってる顔がいい』なんて
どこからそんな発想が???
また思案に漂いそうな俺に
悠が目を細めながら緩く笑って言った。
「なんか欲情しそう…」
「ば、バカかーー!!」
「うん…馬鹿かも」
ふと、落とすように言う。
視線を伏せて、まるで猫が別れ際にする様に。
それだ…それ…
それ反則だ。
今度こそちょっと強く説教
食らわせようかと思ってたのに…
伏せられた、思ったよりも長いまつげが、
何もかもを引き連れて俺を煽る。
ふと見せる表情にグラっと来てしまうのは
それこそ…そう…アレだ…きっとそう。
認めたくはないけれど、
頭にポンっと浮かんだ
安易だけど、きっとそんな言葉。
「だって、なかなか外で見られないだろ?陽介のソレ」
「は?」
「だから…俺の前だけで展開されてるみたいで嬉しい」
あんぐりとだらしなく口を開けて固まる俺。
それすらも楽しいのか、まるで凪ぐみたいに笑う悠。
そしてそれすらも俺をグラリとさせるんだ。
こうやって、俺はお前に止めを刺される。
お前のソレだって外じゃみられない。
俺だって…それが嬉しくないわけがない。
「とゆーわけで、陽介頑張れ。
考えるのちゃんと手伝うからな?」
「あ、ああ…………え?」
俺が感傷深くのめりこんでいると、
お前は伏せた目を再びに開くと
右手に握り拳を作って決意とともに宣言した。
「だから…どうせなら、完璧にやろう」
「え????」
一瞬にして相棒の目つきが変わったのが分かった。
あれ?なんかこの目、他でも見たぞ……
あれは確か………ダンジョンで……………
「俺、中途半端は嫌いだから」
「か、考えるのを完璧に???」
「そう…陽介…まずはきちんとリストを作ろう」
「え?あ、あの…悠???」
「今まで陽介がどんなものを
ホワイトデーに贈って来たか分かれば
自ずと今回に当てはまるアイテムが見つかるはずだ」
そう言いながら立ち上がると
戸棚を開き、何かを探し始めた。
暫くしてその手が握っていたのは、
ペンと紙とかの文房具類。
「あ…あの………な、鳴上さん??」
「大丈夫だ、陽介。リストが作れそうな用紙なら沢山あるから」
「…………………………………………………………」
思い出した。
ダンジョン探索時のマップ作りだ…。
だ、ダメだ…スイッチ入っちゃった…ぞ……コレは…
思い出した途端、頭を抱えることになった俺に、
悠はふと表情を少し戻して言った。
「あ、そうそう…………出来るまでは帰さないからな?」
「へ?!」
「覚悟しとけよ?」
にやりといつもの悪い笑い方。
嵌められた…今度こそ…そう、完璧に。
よしんば…もしも…ソレ(リストとやら)が
完成したとしても、
無事には帰して貰え無さそうな予感が
俺の眼前に漂ってた。
「陽介…大丈夫だよ」
「は?なにが????」
「優しくするから…」
「ばばばば、バカかーー!」
・
・
・
アレ?もしかして無事には帰れないとゆーか…
むしろ帰れないのか?
…マジで?
そんなことを考えながら、
俺がぽかんとしていたら
楽しそうなお前がまるで鼻歌でも歌う様に
笑いながら振り向いて俺を呼んだ。
「陽介、どうした?」
「…っ…な、なんでもねー…」
まただ…
他じゃ絶対見られない様な
優しい表情と声で呼ばれたから、
やはりグラリと来てしまう。
それを、俺が嬉しくないわけがない。
嬉しいんだよ…
お前のソレは俺にとって絶対的に。
「あー…もー……また俺、勝てないのかよ…」
「ん?なんか言ったか?陽介」
「んー…なんでもねー…」
楽しそうなお前が、俺にとっての至福なワケで。
それこそ…そう…アレだ…きっとそう。
惚れたなんとやら…………だ。
お前に対して、
なんでか…とか
どこが…とかじゃなくて。
お前存在自体が俺の弱みで至福なんだと。
それがほんの少し悔しくて、
簡単には認めたくはないけれど、
俺にとってお前はきっとそんな存在なんだな。
「悠ー…夕飯は肉じゃががいいですー…」
「了解ー」
悔しいから、簡単には言ってやらねーけど。
Fin
なんとか間に合った?ホワイトデー創作~
折角バレンタインもやったんだから
ホワイトデーも!とか……;;;
結局、ホワイトデーのお返しは
何になったのか分からないまま…(苦笑)
楽しんで頂けたら倖い。