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【君色テンプテーション】

陽介視点:高校三年の陽介のお誕生日話。

二人きりで出かけたツーリング。
途中、雨が降って来て急遽一晩旅館へと泊まることに……。

遅すぎたお誕生日創作;;;
ホントはこれを6月のcityで無配予定でした;;
遅くなって申し訳ございません;;;

18歳未満の方は回れ右!!

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2012年の夏休み。
集まったジュネスのフードコートで
おなじみのメンツで話していると
ふいに悠へと質問が上がった。

「そうそうー鳴上くん、花村の髪型驚かないんだねー」
「花村くん、バッサリ切ったものね」

里中と天城からの問いに悠は苦笑い。

確かに切った。
っつっても男だし、そんな変わるってわけでもねーんだけど。
俺の微妙な表情に悠は苦笑いするから
その理由が分かっている俺は頭をかきながら言った。

「あのな……悠は6月に一回こっち帰ってきたじゃねーか。もうとっくに知ってんよ」
「あー…そっか! てゆーか、鳴上くんが帰ってきた日は勿論覚えてるけど
 花村の髪型がいつ変わったかなんていちいちチェックしてないし!」
「里中、お前がこの話題ふったんだろーが! ヒデーだろ、その言い方!」
「うん、私も全然チェックしてない。」
「天城さん……傷口をえぐる様なことは止めてクダサイ」

おなじみのやり取りを見て悠が笑う。
その様子を見て俺もつられて笑った。

「ま、あれだ……な? 悠」
「ああ……いい思い出になった。すごく可愛かった…」
「可愛い?? 何が??」
「何か小動物でも見たの?」
「ば…っ…おま…っ…よ、余計なことは言わなくていいっつーの!」

慌てる俺をみて、先程よりも更に楽しそうに笑うと
悠は俺へと少しだけ近寄って耳打ちした。

「また、泊まってもいいかもな」
「!? ば、バカ……っ」
「?? 止まる?」
「停まる? 留まる?」
「も、いーから! やめたげて…っ」

顔を見合わせる里中と天城を制する様に
俺は声を上げた。

あれは6月。暑い暑い……夏も始めの日。




高校三年の六月二十二日。
お互いの学校の代休が重なったことで
それをを利用して帰ってきた相棒と
俺は二人きりでツーリングに出かけた。



「じゃあ、行こうか」
「おう! 俺、行きたいトコあんだよ」
「そうか、じゃあ……今日は陽介の行きたい所優先で」
「え? い、いいのか?」
「ああ……」

優しく笑う……久しぶりに見られたそのしぐさに
俺は不覚にも……その…ちょっと、ときめいちゃったりした。

「陽介、どうした?」
「あ…いや、なんでもねー……」

赤くなっているであろう頬を見られないように
ヘルメットをかぶり、座席へと腰かける。


今日のツーリング。
出来たらみんな一緒にって思っていたんだけど
他の連中はなんだか色々と忙しいらしくて
結局、俺と相棒の二人きりになってしまった。

「みんなも来られたら良かったのになー」
「ああ、そうだな……まぁ、それはまた今度で」
「お、おう! 今日は今日で楽しまないとな!」

ぶっちゃけ、俺としてはその方が嬉しいんだけど……
なんて……そんなことは億尾にも出さず。
俺は悠と二人きりのツーリングを楽しもうと、
無意識にアクセルを吹かす。

5月は色々とゴタゴタがあってダメで、
ちゃんと『二人きり』なんて、悠が都会に帰って以来
本当に久しぶりで。

「超、久しぶりで…超キンチョーするっつーか……」
「陽介?」
「あ、いやいや……なんでもねーっ」

俺は浮ついた様子を悟られないように、
なんでもない会話をこなそうと必死になる。

「そうだ……悠、あのさ……っ…なんか気づかねー?」
「ん? 何を?」
「あー……うん…なんでもねーー……」

まぁ、こんなもんか……。
俺は小さくため息をこぼした。

今日は超久しぶりの二人きりのツーリング!
なんですケド……実は、今日は俺のお誕生日ってやつでもあって…。

実の所、ちょっと期待とかしちゃってる俺がいて。
それは物質的じゃなくて、言葉とかだけで良かったんだけど
相棒からは微塵もそんな様子を感じられなかった。

「陽介? どうした?」
「い、いや……なんでもねーよ?」

俺が寂しげにため息を吐いたのが聞こえてしまったのか、
悠は隣へと並走すると俺へと聞き返して来た。

そんな俺は、高校生にもなってお誕生日なんぞでガッカリしてしまっている
自分がなんだか情けなくて……いつものクセで作り笑いで返してしまう。

「ほら、次行こうぜ! お前、明日には帰っちまうんだから……っ」
「あ、ああ……」

そう、明日の昼には悠は帰ってしまう。
俺達は受験を控えた高校三年生で、それぞれに忙しくて。

だからこそ何かが欲しいわけじゃなくて、
俺が期待していたのは相棒からの言葉とか仕草とか
そんなのだったんだけど……。

そんなことを考えながら隣をちらりと見ると悠がいて、
俺は、まだまだコイツに夢中なんだと改めて気づかされた気がした。

『ったく……ホント、バカだな俺って』

まだまだ好きなんだ。って言ったらどんな顔をするのか
見てみたいけどそんなこと言えそうにもない。
俺は苦笑いしながらハンドルを握りしめた。


走るバイクのエンジン音が心地よく響く。
回りの木々がまるで避けて行くように過ぎ去るスピードに乗せられて
もっともっとと、速度を速めてしまいそうになるんだけど
『安全運転でね!』と言って送り出してくれた
菜々子ちゃんの声がよぎると、俺は反射的に速度を弱めた。

そんな俺に気づいたのか、後ろを走っていた悠から声がかかる。

「陽介、もう少しゆっくり」
「おう、悪ぃ~朝、菜々子ちゃんも言ってたもんな安全運転って」
「ああ……なあ、陽介」
「ん? なに?」
「なんか…変じゃないか?」
「へ? ああ…空模様か?」

俺が速度を更に弱め、視線だけで空をみると
確かに薄い雲がすぐそこまで伸びて来ていた。

「もしかして……一雨くっかな?」
「いや…そうじゃなくて……」
「へ??」
「もしかして具合でも悪いのか? 様子が……」
「そ、そんなことねーよ! バイクの運転が久しぶりだからちょっとな」
「そうか? 本当に?」

おい、こら。バレバレか!? なんでバレた?
悠がいぶかしんでいるのが手に取る様に分かるから、
俺はなんとか誤魔化そうと必死に言葉を繋いだ。

「お、おう! 大丈夫だって! ホントちょっと運転がな……
 で、話戻るけど……や、やっぱ雨来そうじゃね?」
「……ああ、そうかもしれない」
「は、早めに回ろうぜ……っ」
「わかった……」

普段通りに装えただろうか?
未だドキドキする胸を手の平で撫でると
じんわりと汗が滲んできた。

『ホント、バカだな俺って……』

見上げた空模様と俺の心が比例する様で
ぼんやりとした感触をぬぐえないまま
俺達は目的地へと急いだ。



そのあと、二人で行ってみたかった場所や
隣町の新名物とか、夏物の売り出しとか色々巡って。

気が付いたら空は先程の雲が追いついてきてしまった様で
今にも一雨来そうだった。

「早く帰んねーとヤバいかも」
「ああ、そうだな」

そんな会話をしながら走っていると途端降り出して、
俺達はたちまちずぶ濡れになる。

「うおー…すげー雨っ…う、運転……こ、怖っ……」
「陽介、こっちだ」
「へ??」

大粒の雨の中慌てる俺を悠が手招きして誘導すると
高台にある近くの温泉施設に辿り着いた。

「ゆ、悠……何処にっ」
「雨の中走るのは危ないから、ここで少し休憩して行こう?」
「え? お、おう!」

ずぶ濡れの俺達。
悠はいつもの落ち着いた様子で宿へと入ると、
休憩部屋をおさえようとフロントへと向かう。
その様子を見て俺も慌てて後を追った。




「へ!? いっぱい!?」
「はい……大変申し訳ございません。
 この雨で休憩部屋は満室でして…ご宿泊なら開いているのですが」
「なら、宿泊で」
「へ!? ゆ、悠…泊まんの!?」

驚きの即決に俺が声を上げると
悠は未だ降り続ける雨を横目で見ると言った。

「ああ…雨が止んでも、あの道の様子じゃスリップしかねないし」

『無理に帰っても危険だよ』そう言いながら
何でもない様子で備え付けのペンを取り記入する。

俺はその言葉と落ち着いた様子を見てなるほどと
納得するんだけど置かれた状況をもう一度心の中で確認すると
脳内にものすごい勢いで血が上っていくのを感じた。

「へ? あれ!? ゆ、悠! これってもしかして……」
「じゃあ二人一部屋で一泊で」
「ひ、一部屋!? ヒトヘヤって一部屋!?」
「え? ダメか? 陽介?」
「い、いや……ダメじゃねーけど、ダメっつーか……」
「??」
「いや、ナンデモナイデス……」

変に緊張するトコじゃないはずなのに、俺は先程よりも
さらに大きな声を上げてしまった自分を後悔した。

「陽介、苦情は後で聞くから……とりあえず二人一部屋で一泊で。」
「はい、かしこまりました。丁度、雨でキャンセルが
 出ましたので上層階のお部屋をご用意出来ます。」

なんだか俺を置き去りにして、ずんどこ話が進んで行く。

悠は慣れた様子で手続きを済ませ、カードキーを
受け取って俺をロビー奥のエレベーター前へと視線で促す。

それを見て俺がぎこちなく歩みを進めると、ふいに右手に暖かい感触を感じて、
弾かれた様に見上げると目線の先には柔らかく笑う悠がいた。

俺がその柔らかい笑顔に見とれていると、
悠は俺の耳元で優しく囁く。

「もしかして……緊張してる?」
「ち、ちげーっつーの! べつに緊張なんか…っ」
「だよな、前にも一緒に泊まったしな」
「お、おう……」

緊張? してます。すげーしてます。超ーーしてます。
前にも? それって修学旅行とか、天城ん家の打ち上げのことだろ?
全然違う……これって、きっと初めての……。

「あのさ、悠……こ、これって……」
「陽介?」
「あ…いや……なんでもねー…っ」

どうしよう…ドキドキどころか、バクバク言ってて
口から心臓が出てしまいそうだ。

これって『お泊り』ってやつですよね?

そんなつもりで来て無いから色々なことが気になってしまう。
そんな風に無様に浮ついた俺の口は何を思ったのか、
今更ガッカリな言葉を漏らした。

「ゆ、悠……実は俺、今日そんなに金の持ち合わせが…っ」
「いいよ、今日は陽介の誕生日だし。プレゼントも兼ねて」
「へ? お、覚えてたのか!?」

さらりと、何でもないように答える悠の言葉に俺が驚いて
声を上げると『恋人の誕生日を忘れるわけないだろ』
って苦笑いしながら答えてくれた。

「こ、恋人……うん…」
「陽介?」
「なな、なんでもない……っ」

悠の口から出た『恋人』って言葉と今日これからの状況とを考えると、
再び心臓はバクバクと五月蠅いくらいに音を立てて鼓動を打ち始めた。

「陽介、本当に大丈夫か?」
「だだ、ダイジョーブだって! はは……」

俺は呼吸さえも上手く出来ないまま、肩口をビクビクさせつつ
エレベーターに乗ると、目的の階のボタンを震える指で連打した。






「はいはい、クマですよー!!」

部屋に入って俺が一番にしたことは
……自宅に電話を掛けることだった。

我ながらカッコ悪ぃとは思うけど、悠と二人きりで
宿に泊まるという、この状況がなんだか落ち着かない。

携帯を取り出しダイヤルすると
元気すぎる応答が向こう側から聞こえてきた。

「クマ吉! クマじゃ通じねーっていつも言ってんだろ!」
「あ、間違っちゃったーー! 花村でーすクマ!」
「遅せぇよ……」

『そもそも“クマ”が余計だ』と、留守番役のクマの声に
心の中で呟き脱力しつつも、いつも通りの空気に俺は笑う。

クマへと事の詳細を話すと予想通り
『土産が欲しい』だの『センセイと二人きりでうらやましい』だのと
聞こえてきたから、俺は呆れて言った。

「あーわかったわかった。土産買ってくっから」

『部屋のモン勝手にさわるなよ! クマ吉!』
なんて注意も同時に促したけれど
どれだけ理解しているやら……俺はため息が
床に落ちるのと同時に通話を終了させた。

苦笑いしながら窓辺に佇む悠へと視線をやると、
悠もこちらを向いて笑う。

「どうだった?」
「あー… まぁ、ウチの親は予想通りっつーか……」

良かった……なんだか予想していたよりも普通の会話だ。

このやりとりに顔がほころぶのと同時に、
俺は少しだけ後ろめたいような気分にもなる。
『ちょっとそーいうこと期待しちゃってました!』
みたいな……そんな健全な青少年的なアレに。

気を取り直して電話の内容を話すと、予想していたのか
悠は『やっぱりね……』と笑いながらまた窓の外を見た。
外は大粒の雨が叩きつけるように降り続けている。

「ウチの親は『鳴上くんが一緒なら大丈夫ね』ってさー」
「まぁ……別の意味で大丈夫じゃないかもだけどな」
「は!? え、えと……??」

俺がアレな邪念を振り払った途端、今度は悠から投げられた直球に
顔面から当たってしまった様で、みっともなく声を上げてしまった。

「……なんて、冗談だよ」
「お、おう……」

相棒のニヤリと笑う仕草に
今更にドキドキして俺は目を逸らす。

うーー……ダメだ。
なんかまた緊張してきた……。

きっと悠は単純に、雨で危ねーから
ココ泊まろうって言ってくれたんだし。

そーいうとこホント頼りになるっつーか。
俺なら無理にでも帰ろう! って言っちゃってたろうし。

うーー! しっかりしろ! 俺!
エロいこと考えない! ちゃんとする!

悠の優しい行動の為にも再び沸き上がってくる邪念を振り払おうと
頭を振ると、雨の為に曇った窓ガラスが視界に入る。

部屋は言われた通りの上層階で、眺めはサイコー!
って言いたかったんだけど、先程からの豪雨で景色は
ほとんど楽しめなかった。

「すげー雨。やっぱ、泊まって正解だったな」

ガラスに当たって、跳ね上がって流れ落ちる雨粒。
天気予報じゃ、この雨は局地的ってやつで
この後、朝方まで降り続くらしい。

俺が窓ガラス越しの景色に唸ると、
いつの間にか近寄ってきていた悠と目があった。

「で……陽介、部屋に不平不満は?」
「う……な、ないです」

別に部屋に不満があったワケじゃない。
『初めて』の『二人きり』の『お泊り』ってヤツに緊張しているだけ。

「素直でよろしい」

俺の言葉にニヤリと笑う。
俺とは正反対に全然緊張してない風の悠。

うらやましい……なぜそのように振る舞えるのでしょうか……。
俺なんか、もう一歩歩くだけでもいっぱいいっぱいなのに……。
ステMAXだからですかね?

などと、どうでもいいことを考えていたら、
俺と視線が合った悠が優しく笑いかけて来てくれた。

それはいつもの見慣れた仕草なハズなのに、しばらくの間離れていたせいか、
近くにあることが自体が嬉しくて言葉に詰まってしまう。

「う……」
「陽介?」
「あ…えっと……誕生日覚えてくれてたんだな」

何か話さないと……と、考えて
また誕生日の話を持ち出してしまった。
我ながらこの会話展開はどうなの? バカなの? 
と、焦るんだけど、悠は視線を伏せて懐かしい様な表情で笑う。

「だって、陽介の誕生日だし、それに……」
「それに??」
「今回は、それ狙いで来たって言ったら驚く?」
「へ!?」

それ狙いってことは、俺の誕生日を祝うために八十稲羽に戻ってきた……とか?
いやいや…まさか、まさか…。

そういう嬉しい希望的観測っつーか、なんつーか。
そういうフワフワした感覚に俺が目を泳がせていると
驚いたのか、悠が目を見開いて聞いてきた。

「あれ? 期待してなかったのか?」
「えっと……ご、ごめん。期待してなかったワケじゃねーんだけど……っ」
「いや、別に謝らなくても……
 誕生日おめでとうって、直接言いたかっただけだから」
「あ、ありがとうございます……っ」

ホントに俺の為に帰って来てくれたのか?
やばい、どうしよう……。

その言葉を聞いた俺は嬉しすぎて、
今まで感じた事がないくらいに
頬が熱く火照ってしまって、頭の中がグルグルする。

高校生にもなって…しかも男が、今更お誕生日もねーだろって
思うんだけど、悠だけには今日って日がなんの日か
覚えていて欲しかったんだ。

だから、それが叶って嬉しい俺は
雲の上で夢でも見ているんじゃないかって
くらいフワフワとまるで浮かんでいるような気分になる。

だ、ダメだ…これでは…さすがにちょっと……。

「髪、切ったんだな」
「え? お、おう!?」

考え込んでいた俺は、急な話題展開に反射的に声を上げる。
悠は更に数歩近寄ってきて間近まで迫り、俺の姿を眺めると
少しだけ低いトーンで返してきた。

「ふーん、ずいぶん切ったんだな……」

うわあぁぁ……近い、近い。近すぎですーー!

フワフワした感情が未だおさまっていないところへ
まつ毛もはっきり見えるくらい近づいてくる悠。
俺はなんでもない風をを装うと必死に息を吸った。

「なな、なんだよ…っ…に、似合わねー?」
「いや、いいんじゃないか? よく似合ってるよ」
「そ、そっか……」

『似合う』の言葉に安堵が広がるんだけど、若干感じる歯切れの
悪さに不安を感じた俺は思わず聞き返した。

「あ、あのさ…悠……」
「ん?」
「ま、前の方がいい? 長い方が好きだったか?」
「え?」

俺が恐る恐る聞くと、悠は突然顔面を両手で覆い隠し
何かをこらえる様に言葉を詰まらせる。
その仕草に俺は驚いて声を上げた。

「な、なんだよ…っ…やっぱ前の髪型の方が……っ」
「違う……全然違う」
「へ?」

俺が素っ頓狂な声を上げると、悠は一つ大きく深呼吸をして顔を上げ、
ニヤリと笑いながら返して来た。

「俺の恋人は俺がいない間に随分と
 可愛いことを言う様になったな……と、感慨深く……」
「は!? ななっ…か、可愛いってなんだよ…っ」
「そんなに気にして……俺の好みに合わせてくれるのか?」
「ばっ…そーいうことじゃ…っ」

気にしてない! 感想を聞いただけだ! と俺が言うと
悠はこれ以上ないくらい破顔して言う。

「感想か……俺は陽介が好きだから、その感じも好きだよ?」
「え……ほ、ホントか?」
「ああ…よく似合う、可愛い」
「だ、だから…っ…可愛いとかって……」

そーいうのは女の子に言えよ! って
自問自答というか、自戒自虐な思考がグルグル回る。
手をワキワキと意味もなく動かす俺を見ながら、
悠は笑顔のまま唐突に言葉を投げた。

「うん、キスマークがよく目立ちそう」
「は!? おま…っ…なに言っちゃってるんですか!?」

なに!? キスマークって!?
今の話からどーしてそんな展開に??
俺の脳内が盛大に?マークで埋め尽くされると
すかさず悠がぼそりと真顔で言った。

「つけたいんだけどいいかな? キスマーク」
「いいわけねーだろ! こ、こんなに襟足丸見えなのに…っ」
「うん…だから、よく見えるから…いいなって……」
「そ、それとこれとは…ちょ…待っ……」

悠は俺の言葉を最後まで聞かずに、
首筋に唇を這わせる。

「や……ダメだって……ちょ…あっ…」
「久しぶりの陽介だ……」
「ば、バカっ…やっ…あぁ…」

ま、マジか!? こんな急に!?
まだ全っ然、心の準備とかできてないんですケド!?

途端、流されそうになっている自分に気づいて
俺は背筋を伸ばすと、悠の胸を押しのけて言った。

「ふ、風呂! 俺、風呂入って来るー!」
「え? 風呂?」
「だ、だって……お、俺、汗すげーし!」





……もうホント、俺は何を言ってんだろうか?
せっかくいい感じで迫られたのに逃げてどーする!?

俺が後悔と混乱が入り混じった表情で慌てていると、
悠は仕方ないなって表情で柔らかく笑った。

「ああ、そうか……いってらっしゃい。俺はまだちょっと休憩してるから」
「お、おう? そっか、一緒に入んないのか…………」
「ん? 一緒に入るか? 部屋風呂もあるみたいだよ?」
「ふぇ!?……え、遠慮しときますぅぅぅぅ!!!!」

自分で言った迂闊な言葉に
悠がタイミングよく返答してくるから
自分で言った言葉にドキドキしてしまった。

バカか! 俺は…っ

備え付けのタオルと掴むと
ドタドタと音を立てて部屋を後にした。


「うーー……」

一度振り払った邪念が再び降りてきた。
そうだよな……色々すっ飛んでたけど
俺達は恋人同士だし、お泊りすればアレはあるかもだし。

今夜は二人きりだし……。

って……うおおぉぉ…また変な妄想出てきた…っ

以前経験済みの、あの感触や熱さ。

震えるくらいの快楽を思い出して
俺は体中の血が沸き上がるのを感じた。

「ダメだダメだ! ふ、風呂入って平常心を……っ」

そうブツブツと独り言ちながら、沸き上がってくる
熱や邪念振り払おうと俺は大浴場へと大急ぎで向かった。





「悠?」

部屋に戻ると、二間ある部屋のもう一間には布団が敷かれていて、
ソファには深く腰掛けたまま寝入っている悠の姿があった。

夕食は館内の施設で取る約束をしていたから、寝かせておいてもいいんだけど、
このままでは風邪をひいてしまうかもしれない。

「仲居さんが敷いてったのか……悠? おい、風邪ひくぞ? そんな眠いなら布団に」
「うーん……」
「疲れてんのかな?」 

そういえば、今日は俺の行きたいところばかり
引っ張りまわしてしまった気がする。
まさか…まさかとは思うけど、これも悠の計画した誕生日の
なんとやらだったら……ちょっとどころか、すげー嬉しい。

「悠? 起きねーの?」

未だフワフワする感覚が後押しして俺の手を動かした。
手は不自然に震えながら悠の前髪へと触れる。

「すっげーサラサラ……いいなー……」

『俺、クセすげーから……』なんて言いながら
悠の前髪に触れて、そのまま指で梳く様に撫でた。

サラサラした感触に俺はぼんやりと
耽ってしまって、止められないまま何度も梳く様に触れ続ける。

「陽介……」
「う、うお…!?」

するとふいに俺の手首を掴む手の感触が来て、
俺の手は悠に掴まれていた。

俺はビクリと肩を震わせて後ずさるんだけど
悠は痛いくらいに俺の手首掴んで離さなかった。

「ずいぶん、俺の髪の毛にご執心で」
「お、起きてたのか!?」
「うん、途中から」

悠は薄く目を上げて嬉しそうに笑う。
しかし一転、ニヤリと意地悪く笑い、
俺の手首を掴んだまま体ごと引き寄せた。

「わ…っ…ちょ…っ」
「待ってたんだけど……遅かったな」
「わ、悪ぃ……」

だって、緊張しててなかなか戻れなかったんだってー!

まさか、そんなこと言えるわけもなく。
俺は話題を逸らそうと『食事、いつ食べようか?』とか、
『雨やまないな』とか、きょろきょろ落ち着かない様子で言った。

すると悠は気だるそうに座り直しため息を吐くと
機嫌が悪くした時の様に眉をしかめ言った。

「やっぱり、何かあったのか?」
「へ? な、なにかって?」
「なんかすごい緊張してるみたいだし……俺に言いたくないことがあるのか?」
「き、緊張って……そ、そんなことねーっ」
「まさか……俺が嫌になったとか?」
「は!? な、なんでそーなる!?」

俺が慌てて否定すると、悠はグっと
何かをこらえるような目をして俺を見た。

「ゆ、悠?? どした? なんか変……」

その目はなんかいつもと違って、
まるで飢えた狼みたいな目をしてた。

「ダメだ…なんか俺、陽介のことになると本当ダメだな……」
「へ? お、俺??」
「…………待ちくたびれたんだ、ご褒美を下さい」
「え…ちょ…んんっ」

そういうと手首を引かれ、悠の膝の上へと
座らされて体を抱えられる。

そのままグっとさらに引き寄せられ
体を固定されると、何度も角度を変えてキスされた。

「ちょ…んんっ……ゆっ…」
「陽介……っ」

悠の膝の上に座らされる形で抱き締められて
丸ごと愛されるみたいで、なんだかこそばゆい。

「ちょ、待っ…ひゃっ…舐めるなっ」
「ん…だめ。まだ足りない」
「ちょっ…ダメだってっ」
「……なんで?」
「お、おま……ふ、風呂入って来い! は、話はそれからです……!」
「酷い……こんなにいい子で待ってたのに」
「お、お前が一緒に風呂入ってくれてればすぐ出来た……じゃなくて!」

俺が漏らした言葉に悠はニヤリと笑うと、
一転、すごく優しい表情で言った。

「いや……なんか、陽介がすごく緊張してるみたいだったから」

『ちょっと一人にさせてあげた方がいいかなーって』
そう言う悠の言葉に、俺はビクリと反応する。

「だ、だって……悠と二人きりって超久しぶりだし」
「昼間もずっと一緒だったじゃないか」
「ひ、昼間は昼間で……別のお前とゆーか……」
「なんだよそれ……」

俺の言葉を聞いて、悠は楽しそうに声を上げて笑った。

お前と久しぶりに二人きりで遊ぶのが楽しくて
夢中になってしまって緊張する暇も無かったなんて恥ずかしくて言えない。

俺がモゴモゴ、言うのか言わないのかはっきりしない状態で
ジリジリしているからなのか、悠は珍しく俺の次を待たずに言葉を投げてきた。

「……実はさ、俺もちょっと緊張してる」
「へ?」

伏せた視線を追う様に俺はお前の全部に引き寄せられる。

「久しぶりの陽介に会えて、嬉しくて緊張してる」
「悠……」

少しずつ晒してくれる、お前の瞳の奥の奥。
お前の中身のその奥まで全部欲しいから、
俺はやっぱりまだまだお前に夢中なんだと気づかされる。

「ゆ、悠…俺も……」

そんなどうしようもないくらいにドキドキしたままの俺を尻目に、
悠はまるで子供の様に悪戯っぽく笑うと言った。

「で、正直な話……『雨降ってラッキー♪』みたいなこと考えてた」
「は? へ!? な、なんでラッキー??」

悠から急に投げられた言葉に俺は予想の斜め上を
通行されて必要以上に驚く。

「陽介と一緒にいられる、いい口実が出来そうだなって……」
「口実!? え、えっと……」

そんなこと考えてたのか!?
俺が驚いて上手く声も出せずにいると
悠は苦笑いしつつさらに続けた。

「陽介のことだから、今日のあの様子じゃ
 ツーリングのみでお開きとかになりそうだったし……」
「う、ううぅぅ……すみません……」

そ、その通り過ぎて何にも言えねー…。
悠はそんな俺の体を優しく抱きしめ、
胸へと顔を埋めるとボソリボソリと続ける。

「でも宿に着いた途端、陽介は終始緊張してて、
 せっかくの二人きりなのになかなか隙がないし……」
「す、すみません……は!? す、隙って、おま…っ」

隙って…いや…実際、結構緊張してたかも? なんてポロリと
漏れ出てしまいそうになるんだけどなんとか堪えて悠を見た。
その表情はまるで全部分かっていると言いたげな表情で、
俺の様子を楽しそうに眺めると、ワザとらしく耳元で囁いた。

「俺はずっと狙ってたよ?」
「ば、バカ……っ」

狙ってたって何を? キス? それとももっと先?
そんなこと聞けるワケない俺の心中を察したのか
悠はまたニヤリと笑うと言う。

「こういう風に直情的で悪いんだけど……ダメかな? 今日」
「え、えっと……その……っ」
「やっぱりダメ……?」
「ち、ちげーって! だ、ダメなワケねー……」

ダメなワケ無い。
でも、やっぱりお前と二人きりで
こういう雰囲気になるのは緊張する。

好きで好きで、仕方なくて。
離れても好きで。
だから会えたら、お前の全部が欲しくて。

お前も俺が欲しいって聞いたら、そんなの全部あげたくなる。
それはきっとお前だからだと思うんだ。

「ゆ、悠…俺のこと欲しいか?」
「欲しい」
「そ、即答すんな……っ」

あまりの即答に俺が驚いて反射的に逃げようとすると
悠は手首を掴んでまた元の位置へと引き寄せて言った。

「だって、欲しいから。くれる?」
「う……あ、あげます」
「そうか…じゃあ貰う」

本当に嬉しそうに笑う表情に、俺は胸の奥の奥が
切れてしまうんじゃないかって心配するほど切なくなって。

それと同時に泣きたいくらい嬉しくて。

やっぱ俺って、お前じゃなきゃダメなんだなって思う。
お前もそーだと嬉しいんだけど……。



「あっ…っ」
「陽介、あとで二人で一緒に入りにいかないか? 風呂」
「ん…はぁ…う、うんいいけど……って、ちょ…そこダメだって」
「首筋? 痕つけたらダメ?」

旅館の浴衣は少し大きくて、しっかりと帯で
止めていたはずなのに、容易くずり落ちてしまう。

その浴衣の布地をかいくぐるみたいにして
悠が何度も首筋へと吸い付いてくるから、
俺は慌ててそれを制した。

「だ、ダメ! みんなにバレるし……それに…っ」
「それに?」
「あ、あとで自分で見てハズいから、ぜってーダメ…っ」
「うーん……どうしようかな?」
「ど、どうしようかなって…ひゃっ…ちょ…やめ…っ」

音を立てて俺の首筋へと吸い付いてくる。
痕がついてしまうのではないかと俺が避けようとすると
更に追いかけてきて何度も吸い付いた。

「やっ…ちょ…ふぁっ」

小さな音が何度も俺の耳元で響いて
それだけで酷く痺れるのに、唇の熱い感触が
更に体中を震わせて来て、俺は何度も声を上げる。

「陽介…声、隣に聞こえるよ?」
「ふぁ…だってお前がっ…やっ…ダメだって! ちょ…また一個つけた…っ」
「ん…石鹸の香りと陽介の香りですごくいい」
「よくな…い…あぁっ…や…ひゃぁっ」

これじゃ絶対明日丸見えじゃねーか!
バカバカ! 悠のバカーー!!

膝の上で抱えられた状態で触れられているせいか、
抵抗なんてほどんと出来ない。
それでもなんとか抵抗しようと体を強張らせるんだけど、
悠の指先や唇が体を滑る甘い感覚が来るたびに、抵抗は力を失くしていった。

「これじゃ、服から見える…っ…ダメって言ってんのにっ」
「いいんだよ、陽介に『こういうことする相手がいる』って証拠になる」
「は!? な、なんだよそれ…っ…ちょ…待っ」
「陽介は俺のだって証拠になる」
「ば、バカ…っ」

バカバカ、何言ってんだ。
もうとっくに全部お前のなのに。
ホントこいつは何を言ってくれちゃってるんだ。

もしかして、お前も俺じゃなきゃダメなのかな?
ホントにそーだったらすげー嬉しいんだけど……。

赤面してしまった顔を隠すことも出来ないまま
俺は悠の膝の上で喘ぎ続ける。
震える俺の背中を撫でながら悠は言った。

「しばらく消えないから覚悟しておいて」
「う、うん……あのさ、悠……」
「ん?」
「お、お前はこーいうことすんのホントに俺でいいのか? もっと他にも……っ」
「……」

うわあああ……何言ってんの、俺。
自分で言っててすげー泣きたくなってきた!
うう……悠が俺以外の誰かと……なんて、想像だってしたくねーのに!

けど…なぜだか、どうしても聞いてみたくて、
俺が悠の目を覗き込んで聞くと、悠は安心させようとしたのか
ニッコリと笑顔で返してきた。

「他なんて考えたことないよ?」
「……ほ、ホントのホントか?」

自分の猜疑心にイライラしてくるんだけど
自信の無い俺はそれを聞かずにはいれらなかった。
すると俺の言葉を聞いた悠は目を伏せると
少し悲しそうな声で言う。

「本当だよ? 今日の日の為に遠路遥々帰って来るくらい、
 陽介じゃなきゃダメなのに……どうやら俺は信用されてないらしい……」
「ち、違……っ」

違う! そ、そーじゃなくて!
俺が慌てて声を上げると、悠はまっすぐこちらを見て笑った。

「陽介がいい。陽介じゃなきゃ嫌だし。毎日、陽介のことばかり考えるし」
「え……」
「本当に…俺の中身は陽介でいっぱいなんだと思う」

都会に戻っても、俺のことを毎日とか……
そんなの嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだ。

「うー……」
「陽介? どうした?」
「つ、続き…っ! しよう!」
「え? つづき?」

悠は珍しく鳩が豆鉄砲を食ったような
表情で俺を見たから、俺は深く頷いた。

「つづきしよう? お前と一緒にいられたってゆー思い出作って帰りたい」
「陽介……」

俺だって結構、毎日お前でいっぱいですよ。
学校行ってたって、バイトしてたって
家に帰ってだって、お前のこと思い出す。

遠い距離がもどかしくて、泣きたくなる日もあるけれど
そーいう日はお前がくれた思い出とか思い出すようにしてた。
なぜかそうすると、傍にお前がいてくれる様な気がしたから。

「お、俺はお前のものだって証明していけ……っ」
「……すごい殺し文句だね」

悠はなんとも言えない表情で笑うと、
優しく触れるくらいのキスを俺の頬へとする。
そして、首筋へ吸いつく動作をより下へと移動させ始めた。

「ひゃ…や……そこも?」
「うん…気持ちいい?」
「わ、わかんねー…って、ひゃ…ちょ…ダメっ」
「じっとしてて」

胸の辺りを何度も吸い上げられて痕をつけられていく。
赤い色がぼんやりと肌色に浮かんで不思議な色になる。

それを呆けて見ていたら下の方から以前感じたことのある
圧迫感が鈍い快楽と一緒に上がってきた。

「ゆ、指…っ…はぁっ…そこはヤだっ…ダメだってダメ…っ」
「腰、少しだけ浮かせて」
「ひゃっ…ヤだ…何本入れっ……んんっ」
「まだ二本しか入ってない、あんまり力入れると苦しいよ?」
「だって…お前が……ふっ…やっ……」

弱い箇所を擦る様にして刺激して来るから
俺は声も抑えられずに喘いだ。

ヤバい……すごく気持ちいい。

「ふぁ……あぁっ」
「ここ好き?」
「ば、バカっ! って、ちょ…ひゃぁっ」

耳元で囁かれながらもピンポイントで何度も刺激されるから
否が応でも反応してしまう。
快楽に弱い俺は、喘ぎながら悠にしがみつくしか出来ない。

「や、ヤダ…ちょ…待ってっ」
「どう? 陽介、気持ちいい?」
「ど、どうって……あっ…あぁっ」

ダメだ。やっぱすげー気持ちいい。
悠の指で慰めされてると思う感覚と、実際に与えられてる
快楽が混じって神経がフワフワ揺れてて。

切ないのと気持ちいいのとが滅茶苦茶に混じり合って
脳内が甘くてぼんやりした景色になって来る。

「あっ…や……あぁっ…」

深く探る様に弱い箇所をまさぐられる度に、
俺の口から漏れる様な声が出た。

「ああっ…あっ…ふっ…ぁっ…も、ダメっ…」

何度も繰り返し与えられる快楽の許容量がそろそろ限界で。

「あっ…ああぁっ……っ」

白く弾ける意識と一緒に、呼吸が詰まるのを感じて
俺は反射的に目を閉じた。



「はぁ、はぁ………ん?」

甘い倦怠感に翻弄されていると、はだけた浴衣を
悠が手際よくきちんと直してくれているのが見えた。

「え……なんで、終わ…り??」

次に来るであろう事象を想像して、再び体が熱くなりかけて
いた所に、まるで強制終了とばかりに悠の動作が止まった。

「俺、風呂入ってなかったから」
「へ?? 風呂??」
「続きは風呂入ってきてからだな……」
「な!? ま、マジで……?」

ぼそりと落とされた言葉に俺は間抜けにも聞き返す。

「ああ、さすがにこのままじゃ…汗もかいてるし……」
「お、おま……ここまでやっといてそれって……っ」
「え、えっと……ごめん?」

飢えた狼の様な……先程までの様子とはまるで別人の様に
悠は苦笑いで返し来た。

「お、おま……それって…っ」
「ん? どうした?」

その笑顔になんだか釈然としないものを感じつつ、
ここまで好き勝手された甘い感覚とか、こみあげて来るアレとか
色々なものが入り混じってしまって俺は衝動的に叫んだ。

「ごご、ごめんで済むか! ささ、最後までちゃんと責任持て!」
「は? えっと…陽介??」
「ちゃんと責任持って、俺と最後まで……その…っ」

もうお前の全部が欲しいから、色々と難しいことは無理だし。
ここまでされて、お前が触れたことを無かったことにしたくないから、
俺は初めて『お前』を懇願した。

「うん、わかった」

目の前で大きく目を見開いたままだった悠が、
さっきの俺の叫び? で、言いたいことを
どうやら全部理解してくれた様で。

その綺麗な顔立ちで嬉しそうに笑うと
再び俺に触れてきて、耳元で囁いた。。

「陽介からのおねだりなんて幸せです」
「ば、バカ! それは……っ」

俺の額へと何度もキスをして嬉しそうに笑う悠。
俺はなんだか気恥ずかしくてうつむいてしまう。

そんな俺の様子を知ってか知らずか、
悠はさっきの嬉しそうな笑顔のまま俺へと囁いた。

「うん、ちょっとここからは凄いから覚悟して?」
「へ? か、覚悟??」

ニヤリと笑ったままの悠が俺を持ち上げ向きを変えさせると、
俺は畳に手を突いた格好で四つん這いの状態になる。

「え? ちょ……っ」

途端、ズシリと重たい感触を背後から感じて
覚えのある焼けるような快楽が襲ってきた。

「あ…ああぁっ……っ」
「っ……ごめん、少し痛いか?」
「い、痛く…ないっ…ヘーキだから、ちゃんと……っ」

俺が喘ぐと心配そうな声が聞こえて来るから
安心させたくて近くにあった悠の手を握った。

「陽介……っ」

悠の切ない声が背後から聞こえて来るから、
まるで誘導されるみたいに、俺の意識もその声で一気に上がる。
荒い呼吸が繋がる感触と相まって
俺達の意識を上昇させていった。

「あっ…ああっ! ひっ…ゆぅっ」
「ああ、陽介の声だ……っ」

律動の激しさに上手く言葉が紡げなくて
荒く呼吸をするだけになると、
それさえも愛おしいとばかりに
悠が何度も突き上げて来る。

「ひっ…あっ…あぁっ」

擦りあげられる感覚が
快楽を伴って、焼けつくみたいに苦しい。

でも苦しいのに、まだまだ終わって欲しくなくて
悠が動きやすい様に体を支えると
繋いだ手の指と指を絡めて言った。

「もっと大丈夫だから…っ…ふっ…ぁ…」

だからもっと来て欲しい。
今あげられる分、全部やるから。
だから、俺はお前のものだって俺に刻んで行って欲しい。

「あっ…あぁっ……も、ダメ……っ」

体全体が震えると、白く何かが弾けた。




全部が終わったあと、悠は再び俺を
膝の上へと乗せると嬉しそうに抱き締めた。

俺は少しだけ気恥ずかしかったけれど
御満悦な悠を見て『まぁ、いいか…』と
納得しつつ、首筋につけられた痕を確認していた。

「おまっ……ホント、すげーつけたな」
「ああ……ごめん?」
「い、いや……俺がいいって言ったんだし……」

首筋から鎖骨にかけて、
今まで無いくらいに痕がついていた。
これ、明日はどうやって誤魔化そうか?
なんて思案に暮れていると悠がふいに聞いて来た。

「陽介、そういえばなんで髪の毛切ったんだ?」
「へ? あー…まぁ、気分転換つーか??」
「ん?」

唐突に聞かれるからそのまま答えた。
悠が帰ってくるって聞いた日から数日間。
浮ついた俺はなんだかフワフワしてて
どうしようもないくらいだった……だから……。

「お、お前が帰って来るって聞いてなんか浮ついててなー…」
「……」
「これじゃダメだって思って、思い切って切ったとゆーか……」
「ふーん……」
「ふーんって、おまっ…俺は真剣に……っ」
「うん、気持ちわかるよ」
「へ? そ、そうか?」

浮ついた気持ち。
会えるとか、距離が近いとかそういうことが嬉しい。
遠い距離を思って、お前を思って、
泣かなくて済むから。

でも、それだけじゃなくて
『俺はお前がいなくてもちゃんと出来てるから心配すんな!』
って、安心させてやりたかったから。

だから髪を切った。
お前に胸を張って会える俺になれますように
決意の証みたいな、そんな願いみたいなのも込めて。

「うんうん……そうか」
「お、おう……」

俺が感慨深げに考え込んでいると
襟足を優しく撫でる指の感触を感じ、
うつむいていた顔を上げると優しい目をした悠がいた。

「わかるよ……俺も浮ついてたから、陽介に会えるからって」
「へ??」
「改めて、お誕生日おめでとうございます。」
「あ、ありがとうございます…っ」

俺を思って気持ちが浮ついてたお前がいたなんてこと自体が
なんだかすごく嬉しくて、またフワフワしそうになる。
俺がなんとかグっとこらえていると
これ以上ないくらいに嬉しそうに笑った悠が言った。

「うん、ダメだ……陽介が可愛いから気持ちがフワフワする」
「お、おま……だから、可愛いとかって」
「嫌か?」
「嫌じゃねーけど……」

『けど?』って聞き返す悠を見ると
俺は色々と感情が入り混じってしまって。
焦って投げた言葉はなんだか色気のないガッカリな言葉だった。

「は、ハズい……っつーか…っ」
「……嬉しい、とかじゃなくて?」
「え……」
「俺は陽介に会えて嬉しい。陽介に触れられて嬉しい。」
「う……っ」
「なんでそこで照れるんだよ……さっきまでもっとすごいコトしてたのに」
「バ、バカ……っ」

最後囁くみたいに『好きだよ』って言った声が
俺の芯まで響いてまた俺はお前に夢中になる。

きっとここまで人を好きになったのは
お前がはじめてで。

俺もお前に会えて嬉しい。
お前に触れられて嬉しい。
お前のものになれて嬉しい。

「お、俺も…お前が好きだから……
 お前に会えて、触れて貰えて嬉しい……っ」
「陽介……」

普段じゃ到底言えないだろう
でも、とても大切な言葉を
顔はうつむいたままだったけれど
なんとか悠へと囁いた。

すると俺を抱き締めた悠の腕が小さく戦慄いて
座っていたソファへ俺を押し倒した。

「わ…っ…ちょ、悠…っ!?」
「陽介……悪いけど、もう一度」

悠は普段しないであろう息遣いで胸を動かしながら
俺へと覆いかぶさって来る。
悠の全てで俺を『欲しい』って言われてるみたいで
俺はまた、切なくて、嬉しくてどうしようもなくなる。

「わ、悪いなんて言うな……っ」
「陽介……?」
「俺だってお前に会えて嬉しいし、俺ってまだ浮ついてるみたいなんで……」

お前がちゃんとここに繋ぎとめとけ!
って俺が苦し紛れに言う。

悠は嬉しそうに笑うと了解の言葉の代わりに
またキスをくれた。

「今日の陽介はすごいな……俺、すごい誘惑されてる…」
「ば、バカ……っ」




まだ雨は降っていて外は真っ暗で
星どころか、道路の照明さえ見えないんだけど。

俺を抱き締めてくれている悠のぬくもりと、
声とその存在だけで、俺は何も不安も感じないまま目を閉じた。

また明日、時間が許す限りお前と一緒にいたい。
そしてその時でにも、次の約束をしようか。

次も次も、そのまた次も。

ずっとずっと、いつまでだって
俺の全部がお前のものだって
照明出来るように。

「さすが、俺の陽介……なんかすごい……っ」
「ちょっ……おまっ……は、ハズいーー!!」

そして次も、そのまた次も
出来たらこうして愛して欲しい。

この飢えた狼を上手に誘惑して、
いつまでも、いついつまでも
俺だけのものにしておけますように。


Fin








P4Gの最後で陽介の髪型について誰も触れないし、
センセイも驚かないので、
『きっとセンセイは陽介のお誕生日に帰郷してたんだ!』と
勝手妄想が超特急で走った結果がこれ(土下座)

楽しんで頂けたら幸い。
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