Polaris
【僕の幸福は君で出来てる】
幸福
捕まえる
お姫様抱っこ
な、感じで。
いってらっしゃいませ。
「じゃあ…とりあえずは、ザント●ン担ぎで」
「ば、おま…っ…ふざけんな…つーか下ろせーーーー!」
「じゃあ、“ザ●トマン担ぎ”と”お姫様だっこ”と、どっちがいい?」
「つーか、なんでその二択なんだよ!
フツーに背負うとかねーのかよ!」
「無い」
「即答すんな!」
コトの始まりはこうだった……
体育の時間、サッカーの試合で
あと一点で見事ハットトリックってところで
ガッカリ王子が見事に転んだ。
あんなに鮮やかな転びっぷりは久しぶりに見た。
すごい見たことも無いくらい
綺麗な弧を描いてた…
とゆーか、飛んでた。
本当に陽介ってすごい………尊敬する…
あ…いや、そうじゃなくて…
「お、おま…っ…お前は恥ずかしくねーのか?!」
「特には」
「…っ…おま…っ」
「ほらほら…安静って言われたんだから」
足を曲げる様な体勢は良くないだろ?
と説き伏せる。
丁度医務室に居合わせていた
医師に診察してもらった所、
軽い捻挫とのことで数日安静と。
そんなこんなで、俺が(保健委員だし)
送って行くことになったのだけれど
ウチの王子が早々に駄々をこね始めた。
「松葉杖!松葉杖下さい!!」
「そんなものはウチにはありません」
ぴしゃりと一喝。
保健委員の俺が言うんだから無いものは無い。
そもそも、学校の医務室に松葉杖なんかあるわけがない。
別に意地悪とかではなく、
本当に無いのだからしょうがないじゃないか。
「ほら…行こう、陽介」
「え?ちょっ…悠…っマジで?!」
駄々をこねる陽介を説き伏せて
半ば無理矢理に“お姫様抱っこ”すると、
陽介に俺の鞄を抱えさせて
躊躇無く歩き始めた。
「あんまり怪我、長引くようなら
探索メンバーから外すからな?」
「うえー…………マジで?……」
「マジで」
「ううぅぅぅぅぅ…」
少しだけ意地の悪い笑顔で促すと、陽介はいくらか堪えた様で、
叱られた犬の様にしゅんとなって大人しく抱き上げられた。
陽介の体温が伝わってきて、
なんだかいつもより暑い。
子犬を抱き締めているみたいな感覚がする。
じわりと、なんだか緩く愛しい…みたいな。
校内を物凄く目立つ状態で抜けると、
一条・長瀬・海老原…と今日に限って
見知った顔に続々と会う。
その度に陽介はビクビクと反応する。
俺は平気な顔して挨拶するけど
陽介は顔も上げられないくらい
恥ずかしいみたいだった。
昇降口で靴を履き替えると
そのまま校門へと続く通路に出た。
「うぅぅ…こんなの…っ…市中引き回しの刑だ………」
「転ぶからだよ…」
「そ、そりゃそーだけどさ…」
真っ赤な顔して…可愛いな…本当に。
もう観念したのか、暴れる様子は無いけれど
あまりに嫌そうなその様子に
俺は衝動的にぽつりと呟いた。
「俺は嬉しいけど?」
「え?……………え?」
「こうやって陽介を助けられて……俺は嬉しい」
嬉しい。嘘じゃない。
陽介は、いつも動き回ってなかなか捕まえられないから。
俺の腕の中に大人しく収まってくれる陽介なんて
きっと滅多に見られない。
だからかな…いつも甘やかしてしまうのは…
俺の傍に陽介が居てくれることがすごく嬉しくて
俺は今、この状態が嬉しくて嬉しくたまらない。
怪我のことは心配だけど………
「……バカか…っ」
「こうしてると陽介の匂いがする…すごい嬉しい」
「ちょっ…おまっ……ぐりぐりすんな…っ………」
真っ赤な顔して抗議する陽介が可愛くて、
俺は何度かその髪の毛に
顔を埋めて至福を楽しんだ。
その度にぴくぴくと
動く感触がたまらなく可愛い。
けれど、次第に身を硬くしてゆく陽介が
少しだけ可哀想になったので、改めて聞いてみた。
「…そんなに恥ずかしいのか?」
「っ…たりめーだろ…っ」
抱き上げられている陽介が
上目遣いで抗議してくる。
これも可愛いとか言ったら
怒られるんだろうな………きっと…
そう思いながらも俺は思わず頬が緩む。
「なんかもう…すごい可愛い……」
「は?!悠????なにいってんのお前?」
「なんでもありません…」
小さく溜息を吐いて立ち止まる。
校門を出て暫く歩いた誰も居ない住宅街。
陽介の嫌がりっぷりに一計を案じた俺は、
それじゃあ仕方ないなと、わざとらしく呟くと
陽介の跳ねた髪の毛に手を添えて、
体の向きを変えるよう促した。
「……ほら、顔隠して…こうやって俺の肩口に
顔埋めていれば他からは見えない」
「え?こ、こう……か?」
「そうそう…そうやって、俺の首に両腕回して…」
「お、おう………」
「顔埋めて…」
「う、うん…………」
「で、ぎゅってする…」
「おう…ぎゅ……って…な、なんだこれ?!なんだこれ?!
…なんだこの体勢は!!お、おまっ…悠!騙したな?!」
なんだもうバレたのか…。
おかしくて笑うとそれもバレたのか
陽介がいよいよ激しく抗議してきた。
俺はそれを何事も無かったように
苦笑いしながらスルーすると言う。
「いいから…ほら…これが一番いいんだって」
「ち、ちげーだろ!お前が楽しいんだろ!」
「そうとも言う」
「そうとしか言わねー!」
「はは…」
「笑うなーー!」
なんだろう、すごく楽しい。
お前からの暖かい感触にまた浮かされてる。
俺の幸福はきっとお前で出来てる。
俺の傍に陽介が居てくれることがすごく嬉しくて
俺は今、この状態が嬉しくて嬉しくてたまらない。
なんだかんだと言いながら、
陽介を抱えたまま歩き続けていると若干腕が下がって来た俺は、
位置を直す為に、少し力を入れて再度陽介を抱えなおした。
それを見たのか、陽介は少しだけ
申し訳なさそうな表情で俺へと聞いて来る。
「お、重くねーか?腕とか大丈夫か?」
「大丈夫だよ…ずっとこうしていたいくらいだ」
「な…っ……ず、ずっとなんてねーからな?」
「ああ…わかってる」
ずっとなんて無い、判ってる。
お前はいつの間にか飛び出していって
俺の見えない所で、俺の知らないお前が展開されるんだ。
実はそれが、すごく惜しい。
ずっとこうしていたいけれど、
きっと飛び出して行って一喜一憂する
お前が本当のお前だろうから。
だから俺はその様子を一番近く、
出来るなら、お前の隣で見ていられたらと…そう思う。
それはきっと、とても楽しいだろう。
「でも…でもさ………その…悠…っ」
「ん?」
「今日は………その…これがいい…お前の傍がいい…」
「…………………」
なんでそんな可愛いこと
言ってくれちゃうんだ…お前は。
凄まじい破壊力の陽介からの言葉に、
俺は暫く固まってしまった。
お前は俺をどうしたいんだ…
困るよ…本当に。
「悠??どした?」
「…………なんでもない」
お前はいつも動き回っていて、
俺にはなかなか捕まえられない。
会いたい時に会えなかったり。
欲しい時に居てくれなかったり。
結構すれ違ったりしてるのに…
俺の気持ちを捕らえて離さない。
こんなにすれ違ったり、気づかなかったり
趣味が違ったり、好きな食べ物や
生活パターンからして全然違うのに。
お前から出てくる、
そのたった一言だけで、俺をこうやって
とても幸せな気持ちにしてくれたりする。
尊敬するよ…本当に。
陽介…お前は本当にすごい。
「悠???」
「陽介…どうしようか…もう……」
「悠????」
頬が緩んで仕方ない。
俺は簡単にはお前を捕まえられないのに、
お前は俺を簡単に捕まえられるんだな。
本当に驚くことばっかりだ。
お前のことに関しては。
こんなにも簡単にお前に捕まってしまった身としては
これからどうやってお前自身をより深く捕まえてやろうかと、
そればかりを毎日考えてる。
「本当…毎日毎日、陽介のことばっかりだ…」
商店街・四六商店へと続く道すがら、
俺は陽介に聞こえないよう
柔らかく笑い呟いた。
「雪子…なんだろーあのバカップルみたいなの…」
「すごいねー…確か花村くんが授業で怪我したんだっけ?」
「わー…今時ドラマの撮影でも見ないかもー…悠センパイ嬉しそう」
「“車を呼ぶ”という選択肢は無かったんでしょうか…」
惣菜大学のベンチ。
放課後のお楽しみとばかりに
里中・天城・久慈川・白鐘の女子グループが
おのおの好きなものを食べ、雑談しながら通りを見ると、
見覚えのある人影を見つけた。
それは、いつもの長身の彼に、
もう一人…その相棒が“お姫様抱っこ”されている姿だった。
その物凄く幸せそうなその様子に、一同呆然と見守る。
「「「「まぁ…幸せそうだからいいか…」」」」
と、それぞれ思ったとか…なんとか。
四六を過ぎた丁度そのころ。
女子達の声は聞こえていたけれど
聞こえないフリをして進んだ。
陽介には幸いにも
聞こえていなかったようだけど…
「陽介…明日から朝、迎えに行くから」
「え?ちょ…」
「テストも近いし、学校休むわけにいかないだろ?」
俺がにやりと笑うと、意味を察したのか
陽介は焦ったように返してきた。
「え??…悠…も、もしかして………」
「“治るまで”しっかり送り迎えするから…どうかお楽しみに」
「い…っ…………いーやーだー!!ふざけんなぁぁぁぁ!!」
お前からの抗議の声に
俺はまた声を出して笑う。
お前からの暖かい感触にまた浮かされてる。
俺の幸福はきっとお前で出来てる。
俺の傍に陽介が居てくれることがすごく嬉しくて
俺は今、この状態が嬉しくて嬉しくてたまらない。
この倖せに目が眩みそうだ。
とりあえずは、この可愛い人を誰にも取られないように
どうにかして俺の腕の中に捕まえておきたいんだけど…。
それにはどうしたらいいものかと、
とてもとても深く思案した結果。
俺は数日間、陽介からの猛抗議を受けながらも
その答えをみんなの前で実践して見せた。
Fin
P4プレイ中に、陽介のコミュランク上げようと
陽介を探すんですが…
これがまた見事に見つからなくて(笑)
多分、私が探しきれてないんだと思うんですが(苦笑)
こう…なかなか捕まえにくい方だな…と。
で、探してない時に昼休みとかに
すっごい思いつめた顔して『放課後一緒に…』言われる(苦笑)
断れるハズないだろーーーーーーーー!!!(笑)
そんなこんなで。
楽しんで頂けたら倖い。