Polaris
【恋ぞつもりて】
ちょっと暗い…けど…まぁ、いつも通りで;;;
(なんだそりゃ…;)
得難い存在
生涯何度目かの告白
甘やかしてくれる
な、感じで。
いってらっしゃいませ。
「意外っつーか…お前なら
引き留めるかなーとか思ってたんだけど」
旅立ちの日。
今度は俺が陽介を見送る側に立つ。
空港のロビーで
ゲートをぼんやり眺めながら
最後になるであろう言葉を交わした。
「いや…陽介が決めたなら俺は応援するよ」
でも、この後きっと
俺は気がふれてしまうだろう。
俺はお前に気づかれない様に
心の中でそう予言する。
そして、ニヤリと悪く笑った。
それは全部を隠すため。
空は澄み渡り、どこまでも青く綺麗で。
旅立ちとしては絶好の日和。
憎らしいくらいそれは綺麗で
めちゃくちゃにしてしまいたいくらい
空気も澄んで、心地の良い日だ。
「悠?どした?」
「ん…別に」
いかないで。
なんて、俺が言えると思うんだろうか?
こんな絶好の日和に。
ああ…そうか、思ってたんだな。
思ってくれていたんだ。
俺が強いと。
でも、それは違うよ。
お前が望むんだったら、
俺はそれを叶えたくなるから。
「絶好の日和だ…陽介」
「ああ、だな!天気いいしなー」
二人で目を細めて空を見た。
いかないで。
なんて言えないよ。
例えこの先に何もなくても、
お前が望むなら俺は進むから。
「本当にいい天気だ…」
だから、俺はお前の望む方へと
視線を定めて漕ぎ出す。
先はきっと何もない水平線のみ。
ぼんやり霞む視界には
本当に何もない。
それでもお前が望むから、
俺は必死で漕ぎ続ける。
手ごたえも何もない。
ただ進むだけの動作で。
お前がいないから
視界もきかず、ただ進むだけ。
何も無いこの先は
まるであの霧の中の様で、
不安と疑心と吐き気を伴う虚無感ばかりだろう。
それに俺は振り回され続ける。
この後、ずっと。
死ぬまで、ずっと。
「バカ…なんて顔してんだよ」
「陽介…俺…」
言いたい言葉を飲み込んだ。
これを言ったらお前は困ってしまうだろうから。
お前は歩みを止めてしまうだろうから。
だから俺はきっと一生この言葉を言えずに過ごす。
今だって少し困った様な表情で
俺を見るお前がいる。
このままじゃ、お前の望む先が叶わないから。
俺がいたんじゃ、きっと叶わないから。
だから…さよなら。
「悠…俺、帰ってくるから」
「うん、知ってる」
知ってる。
分かってる。
そう、頭の中では。
お前は俺のもとに帰って来てくれる。
お前がどんなに誠実で
優しくて、何よりも得難い存在か。
俺が一番分かってる。
でも、戻ってきても
もう遅いんだ。
お前が戻ってきたころには、
お前が知ってる俺はいないから。
だから、さよなら。
もう会うこともないだろう。
「いってらっしゃい、陽介…」
「おう! いってきます、悠」
崩れそうになるのを堪えて
俺は笑う。
そんな偽物の笑顔に
お前はなんとか騙されてくれたから、
安堵と一緒に俺はまた笑った。
本当は今、ボロボロに崩れ去って
何もかもが跡形も無くなってしまいそうなのに。
俺は、お前が笑って出て行けることの方が大切で。
体の芯をガタガタと震わせつつ、
内心泣きながら笑った。
「陽介…俺、この後きっと死んじゃうよ」
言えなかった言葉。
自らの中のみで響かせた言葉に
俺は打ちのめされて。
それはまるで、予言みたいに俺を縛る。
「お前がいないから」
卑怯な俺はずるずる
お前に依存して、
いい気になって笑ってた。
お前が俺を必要としてくれているんだと
みっともなくうぬぼれて。
だから天罰が下ったんだと。
やっと気がついた。
俺は旅立つお前の背中を見つめながら
涙も流せないくらい
何もかもが悲しくて立ち尽くした。
俺から独り立ちして
前を見て歩いてゆくお前の背中を見ながら
思うのは後悔とかそんなんじゃなくて。
ただ、懺悔だったんだと
そう気づいた。
「今更だな…」
ひきつるみたいに
無理やり笑ってみる。
ああ、やっぱり。
ほら、もう…
お前の知ってる俺じゃない。
俺は壊れてしまったよ…陽介。
さよなら、陽介。
もうきっと会えない。
「悠…いい加減にしろよ…」
「え?!…よう…すけ?」
いつの間にか俯いてしまっていた
顔を上げると、そこには陽介がいた。
陽介だ。
本当に、陽介がいる。
俺は幻でも見るみたいに
目を見開いて息を飲む。
「いいたいことがあるなら言えって! なんなんだ?!
もしかして俺が気づかないとでも思ってたのか?!」
「よ、陽介…どうして…」
ゲートのこちら側。
いるはずのない人を目に映して
俺は唸った。
戻って来たのか?
途端、俺はお前の姿を逃さないよう必死になって
その全てを目に焼き付ける。
陽介はそんな馬鹿な俺の耳を引っ張って
ギリギリと歯が軋む音がするんじゃないかってくらい
歯をむき出しにしつつ言った。
「っざっけんな! そんなキモイ顔色で
ヘラヘラ笑ってりゃ、俺みたいなバカだって気づくっつーの!」
「っ…でも……」
「っ……もういい! 言わないなら聞かない!
好きにしろ! お前が一番バカなんじゃねーか!」
「ごめん、陽介…ごめん」
失ったと思った存在を取り戻した途端、
俺の何かが全部崩れてめちゃくちゃになる。
嬉しさのあまり、わけが分からなくて。
俺は陽介の襟首を掴むと、再会の色気なんて微塵も無い、
無様でどうしようもない状態でガタガタと震えながらも、
陽介へと懺悔した。
「いかないで…おいていかないで…」
「俺から離れていかないで」
「お前がいないと生きられない」
さよなら?
どうかしてる。
さよならなんて出来るワケもない。
物分りの良いフリをしたって、
お前には全部御見通しなんだろう?
バレるのはきっと必然だったんだ。
「好きだよ、陽介」
俺の中身はそれだけだから。
俺は知ってる。
俺がお前を甘やかしているんじゃなくて、
お前が俺を甘やかしてることを。
お前は俺に甘いから、俺はそれに甘えてる。
そんな俺もお前に甘いから、
お前をずるずると甘やかそうとする。
そしてお前は優しいから、
それを甘んじて受け止めてくれてる。
俺のズルさを受け止めてくれる。
依存していたのは俺の方。
それは俺が一番よく分かってること。
ズルいのは俺の距離。
優しいのはお前の全て。
「離れたくない…」
俺が一番、それを分かってる。
お前が好きでたまらないことに。
「っ…お前は! どーして
いっつも肝心なことだけはいわねーんだ!」
「っ…痛……ごめん…陽介…
好きだよ、愛してる、結婚して下さい」
「ば、バカ! ち、ちげーっつの!
そそ、そーいうことじゃなくてだな…っ」
ぺちんっと音を立てて俺の額を勢いよく叩くから、
俺はお礼代わりにお前へと、生涯初めての告白をした。
俺の言葉にお前は予想通り真っ赤になって
しどろもどろになるんだけど、
それさえもOKの返答を貰ったみたいで
俺は嬉しくてたまらない。
そして、俺は真っ赤になった陽介の額に
また触れるくらいのキスをして、
もう一度、生涯初めての告白をする。
「好きだよ、陽介…ずっと一緒にいたい」
その言葉を喉から出す。
声に出してお前に告げて、
俺は俺自身を縛った。
めまいがするくらい心地が良い。
そして、手を伸ばしてお前に触れて
ぎゅっと抱きしめて笑った。
幸せの感触がする。
「う…そ、それって…その…プ、プロ……っ」
「そう、プロポーズ…それ以外ないだろ?
陽介は俺のこといらないのか?」
「ば…っ…んなわけねー…」
『いる…欲しい』と、お前は俯いたまま
何度も噛みつつ言ってくれる。
その顔は相変わらず真っ赤になったままで
俯いたまま上手く俺を見ることも
出来ないみたいなんだけど。
俺はそんなお前の全てが愛しくて、
壊れるみたいに笑った。
俺は知ってる。
お前がどんなに誠実で
優しくて、何よりも得難い存在か。
俺が一番分かってる。
そしてきっと、お前も俺を一番分かってる。
俺が誰よりも残酷で
ずる賢くて、何よりも愚かであることを。
俺が誰よりも酷く臆病で、
驚くほど脆い存在であることを。
生涯3度目の告白。
でも、俺がこんなことを言う相手は
お前しかいない。
「陽介…好きだよ、愛してる、結婚して下さい」
本当に俺はどうしようもない。
いつかお前に呆れられて、
捨てられるかもしれないけれど。
欲しいと言ってくれるなら、こんな俺でもいいのなら
俺の全部をあげるから。
だからどうか
死という瞬間が、俺たち二人を別つまで
誰よりも近く俺の傍にいて。
Fin
コンセプトは『ダメなセンセイが空港でプロポーズ』…
す、すみませんでしたぁぁぁぁぁ!!orz
なんかセンセイは変なトコ気を使って遠慮してそうです(苦笑)
陽介助けたげて…!!みたいな。
まぁ、陽介の方が色々グルグル考えていそうなので
逆もいいなーと。
楽しんで頂けたら幸い。