Polaris
『ペルソナ4』の鳴上悠×花村陽介(主花)で文字書き。
※BL要素を含んでおりますので閲覧の際にはカテゴリーに在ります【閲覧上の注意事項】をお読みになってからの閲覧をお勧め致します。★関連イラストはpixivのみの公開となっております。★※こちら日本のサイトとなっており、外国のサイトからの無断リンク、または翻訳サイトからのリンクは許可しておりません。
C85主花新刊【NEVER LAND】サンプル
こんばんはー新刊サンプルUPしにきましたー(*´∀`*)ノ
欟村縹です。

<あらすじ>
大学生主花:お隣の部屋同士の前提。
お互いに大学生生活を満喫していた二人だが、
鳴上から突然の別れ話をされて…。
2013年スパコミ発行の【Laterality】の続きモノと
なっておりますが単独でも読めます。
400円(予定)
※主人公名は鳴上悠(なるかみゆう)で固定となっております。
★折り畳んでおりますので、以下続きからどうぞー。
寒さが増してきた、十一月のとある夜。
都会の空だというのに、珍しく空気が冴えて
夜空の星々が綺麗な夜だった。
「ん? これは…」
鳴上は花村の部屋で二人一緒の夕食を済ませ自分の部屋へと
帰宅すると、ポストの中に何か入っているのを見つける。
入っていたのはA4サイズの封筒だった。
手早く開封すると、その中身は想像していた通りの内容で
鳴上が固まっていると背後から元気のいい声がかかる。
「悠! お前、携帯忘れてる…って、どうした?」
「陽介……」
咄嗟に封筒を右脇へと隠すと、ぽつりと呟いた。
「陽介…俺がいなくなったらどうする?」
「え? な、なんだそれ…っ」
「……」
意味が分からないと言った様子の花村の表情に
鳴上は苦笑いすると目を伏せる。
「俺が、お前の為に何かを諦めたら?」
「は? ちょ…どうしたんだ、お前…」
「……なんでもない」
上手く言葉が繋がらない鳴上を訝しんだ花村が近寄ろうと
一歩歩み出ると、鳴上は逃げる様に後ずさりした。
「…悠?」
「ごめん、なんでもないんだ…忘れてくれ」
「は? な、なんなんだよ…っ」
「ごめん…おやすみ、陽介」
そう言うと、逃げる様に玄関扉を開けて部屋へと入る。
外では花村が扉へ近寄り、鳴上へと呼び掛ける声が聞こえた。
「悠? どうしたんだ? 悠…っ」
「なんでもないんだ、陽介」
未だ外で聞こえる花村の声にグラグラと揺れながらも
鳴上の意志は決まっていて…吐き出すように声を出す。
「答えなんか、もう出てるじゃないか…」
都会に出てきて暫くして、
お互い別々の部屋を借りての大学生生活。
なんというミラクルか、隣同士の部屋となった二人は
それぞれの部屋を行き来して蜜月と呼んでいい程の、
満ち足りた生活を送っていた。
今日という日を迎えるまでは。
次の日の朝、鳴上は笑顔で花村へと言った。
「別れて下さい」
「は? 悠??」
まるで今朝の朝食の献立を告げられた時みたいに流暢に、
張り付いた笑顔のまま鳴上は花村へと言った。
「別れよう、陽介」
「な、なんで…? え? 俺、なんかした?」
「…なにもしてない、陽介は悪くない。でも別れよう?」
「ちょ…な、なんだそれ、意味わかんねーよ!」
「わからなくていい…いいから、別れよう」
「だからなんで…っ」
花村は思わず立ち上がり、テーブルを叩いた。
けれど、鳴上の目は次を用意してくれている目ではなくて。
全てを拒否する様な眼球からの光に、いつもの穏やかな
まなざしが突然全て消え失せてしまったみたいで、
花村はただ呆然としたまま言葉を失くすしかなかった。
あの後、何度かメールや電話のやり取りをしたけれど
鳴上からの言葉は変わらなくて。
花村は突然のことに、何が何だかわからない。
今日も花村は何度目かのチャレンジとばかりに
隣の部屋にいるはずの鳴上の携帯へとかけていた。
「だーかーら! なんで突然別れようなんて言うんだ
意味わかんねーんだって! なんなんだよ!」
『だから…わからなくていいんだって』
受話器の向こう側から聞こえる溜息に一瞬たじろいだけれど
花村は負けじと続ける。
「ほ、他に好きなヤツが出来た…とか?」
『違う』
「じゃあ……お、俺が嫌になった…とか…」
『それも違う』
「じゃあなんで…っ」
自分が嫌なら仕方ない…色々面倒かけてる自覚はあったし、
他でも思い当たることなら両手に余る程あったから。
だからせめて、理由を聞きたかった…なのに。
『…ごめん』
「は? なんだよ…それ…っ」
途端、声のトーンを落として鳴上が謝罪した。
違う…謝って欲しいわけじゃない、理由を聞きたかったのに。
「そうじゃねー! 俺は理由を…っ」
『…酷いヤツだと思っていいよ』
「は? 何言って…」
『理由もなく別れようって言う酷いヤツだと思っていい』
「なんだそれ意味わかんね…と、とにかく一回会おうって!」
『会わない……もういいか? 切るぞ?』
鳴上からの突き放される様な声。
初めて聞いた拒否に花村は頭が真っ白になる。
つい数日前まで変わった様子なんてなかったし、何度思い
返しても理由になる口論や事象も見つからない、なのに…。
「っ…よくない…っ…俺、嫌だ…っ」
『……もう切る。じゃあ…』
「悠……待って…っ」
『……』
切られそうになる通話を必死で繋ぎ止める様に、
花村は鳴上の名前を呼んだ。
「俺は、まだまだお前と一緒にいるつもりで、
じいさんになった俺らとかもちょっと想像してたりして…」
『……陽介』
「そんな想像の中の俺らだけど、俺はお前となら一緒に
いたいなって思ってて」
その場しのぎの嘘なんかじゃない。
普段隠していた本当の気持ちだった。
花村はそれを『切らないで』と何度も祈りながら言葉にする。
この通話が切れてしまえば、本当に何もかもが
途切れてしまう様な気さえしたから。
「だから、そんなヨボヨボのじいさんになってもお前となら」
『……ごめん、俺は…』
「…っ…悠」
低く響く声に、花村は言葉だけでなく呼吸までもが止まる。
『陽介、別れよう…』
嫌なのに…聞かされる言葉は『別れよう』ばかりで、花村は
逃げる様に交わされる言葉が悲しくて衝動的に叫んだ。
「じゃあもういい! 勝手にしろ!」
最後、花村の声が泣いた様にかすれる。
鳴上はその声に一瞬戸惑った様な呼吸をしたけれど、
それを振り切るみたいに言葉を投げた。
『…じゃあ、おやすみ。……さよなら、花村』
花村はリビングの床へと突っ伏して唸っていた。
「くそ…くそくそ…っ」
泣いた様にかすれたんじゃなくて、もう泣いてた。
自分の思いとは逆に、あっさり切られた通話が悲しくて。
いつの間にか遠くなった距離に気が付いてなかったのか?
いつから? なんで? どうして?
そんな取り返しがつかない時間のことばかり駆け巡る。
「だから、なんでなんだよ……っ」
花村は声を殺して泣いた。
― 一方、鳴上の部屋 ―
切ってしまった通話に、鳴上は焼かれる様な
罪悪感と胸が詰まる様な息苦しさを感じて唸った。
「ごめん、陽介…」
出てくる言葉は謝罪ばかりで、何を言ってもきっと花村の
納得いく言葉が出てくる筈もないことはわかっていた。
だからワザと酷い人を演じてみたけれど、花村に対して
自分がいつも他人にするのと同じ様に演じられるわけもなく。
「ごめん…」
きっと中途半端に傷つけた。
握った携帯が発熱する感触に、まるで責められている様に
感じて、衝動的に隣の部屋に接する壁へと体と耳を寄せた。
すると、かすかに聞こえて来たのは聞き覚えのある嗚咽で、
その声に鳴上の方が死んでしまいたくなる。
「陽介…」
もっと責められると思っていたのに、花村は責めてこない。
それどころか理由を聞いて来て、そして理由を知って、
その上で修復を図ろうとしてくれていた。
「陽介…」
繋ぎ直そうとしてくれる優しい手を自分は振り払ったのだと、
改めて襲ってきた罪悪感にしゃがみ込んだ。
「ごめん、陽介…」
鳴上は泣くことも出来ず、ただ花村の名前を呼び続ける。
暗い部屋に伸びた影が、いつもより色濃く不気味に見えた。
それから数日、お互いにお互いの生活感を
感じてはいたけれどお互いに干渉することもなく。
逆に干渉すること自体が悪いことの様に思えて、まるで
最初から知らない相手同士の様な距離で過ごした。
お互いに生活サイクルが少しずつ違うせいか、
廊下で偶然すれ違うなんてこともなく。
まるで全部が消え失せてしまったかのように、
空白の時間が流れて行った。
『会いたい、会いたい。』
花村は、そんな言葉をいくつもいくつもノートに書いた。
書いていたはずのレポートはとっくに頓挫していて、
定まらない思考と、胸をえぐる様な後悔が襲ってくる。
・
・
・
・
・
こんな感じで続きます。
この下から後日談のエピローグの
サンプルとなっておりますが、こちらを見ると
小説本編の多少のネタバレ?となってしまう為、
『大丈夫!OK!』な方だけお進み下さい。
【 Epilogue 】
「悠…これじゃ俺…抱き枕だって…」
「いいだろ、久しぶりの陽介を堪能したって」
「だ、だってよー…」
深夜、花村はベッドの中で後ろから抱えられた状態に唸る。
シングルベッドに男二人なんて、どう考えたって狭すぎて。
けれど鳴上に引っ張られる様にしてベッドへ入ると、
その後ずっとこの抱き枕状態だった。
「ベッドは一つしかありませんし」
「だ、だから俺がソファで寝るって言ってるじゃんか…っ」
「…嫌か?」
「う…い、嫌なわけねーじゃん……」
嫌じゃない…花村だって嫌がっているようでも、久しぶりの
鳴上の体温が嬉しくてニヤニヤしてしまっているのだから。
「大丈夫だよ…長旅で疲れてる陽介くんに
無理なコトさせたりしません」
「ば…おま…ったく…お前はホント変わんねーな」
「そうか?」
「ああ…変わんねー」
しばらく離れていたから、もしかしたら変わってしまって
いるのかも? と心配したりもしたけれど、杞憂の様だった。
安堵と嬉しさで花村はまたニヤニヤとしてしまう。
「ああ、そうそう。陽介、明日は朝一に
下の階の大家さんに挨拶しにいくぞ」
「へ? な、なんで??」
「知らない男が部屋に入って行ったって心配されたんだ」
「み、見られてたのか? 警察とか呼ばれたりしちゃう??」
花村の跳ねた茶髪がくるりと回ると、鳴上へと向き直り
心配そうな顔色で問いかけてくるから、その様子に鳴上は
ニヤリと微笑むとなんでもないように言った。
「大丈夫だ。『俺の恋人です』って言っておいたから」
「ば……おま…っ」
「本当のことなので、俺は躊躇しませんでした」
焦る花村を見て、鳴上は満足そうにまた笑う。
「……ば、バカか…」
「うん、馬鹿かも」
鳴上がそう言って嬉しそうにまたニヤリと笑うから、
その笑顔に花村は変わらない何かを感じるとつられて笑った。
だが…結果として残念ながら成功する前に頓挫してしまって
いたサプライズ計画に思いを馳せ、花村は重たい溜息を吐く。
「つーか、バレバレじゃん。俺、来てんの」
「まぁ…結果的には」
「あーもう! なんだよーせっかくのサプライズがぁ!」
「いや、十分驚いたよ。本当にいるとは思ってなかったから」
「え? そうなのか?」
「ああ…だったらいいなー的な。俺の願望」
「そ、そっか…へへ…っ」
願望なんてそんな予定に入れてくれるのが嬉しくて、花村が
ニヤつきながら鳴上の腕に触れると違和感を感じ手が止まる。
「…なぁ、悠…なんかさらに体デカくなってねーか?」
「そうか?」
「なってるって! なんかガシガシってなってるって!
うおお…俺…なんかすげー焦るんですけど…」
「…何を焦るんだ?」
「えっと……う、浮気とか……?」
花村の消え入りそうな言葉に、鳴上は眉をしかめた。
「……それ、確か納得済みで送り出してくれたよな?」
「う…ううぅ…ちょっと嫉妬するくらい、いーじゃねーか!」
「嫉妬? してくれたんだ?」
「は? すすす、するだろ! フツー!」
真っ赤な顔の花村が抗議すると、鳴上は意地悪く笑って言う。
・
・
・
・
・
こんな感じで続きます。
何卒宜しくお願い致します~(*´∀`*)ノ
欟村縹です。
<あらすじ>
大学生主花:お隣の部屋同士の前提。
お互いに大学生生活を満喫していた二人だが、
鳴上から突然の別れ話をされて…。
2013年スパコミ発行の【Laterality】の続きモノと
なっておりますが単独でも読めます。
400円(予定)
※主人公名は鳴上悠(なるかみゆう)で固定となっております。
★折り畳んでおりますので、以下続きからどうぞー。
寒さが増してきた、十一月のとある夜。
都会の空だというのに、珍しく空気が冴えて
夜空の星々が綺麗な夜だった。
「ん? これは…」
鳴上は花村の部屋で二人一緒の夕食を済ませ自分の部屋へと
帰宅すると、ポストの中に何か入っているのを見つける。
入っていたのはA4サイズの封筒だった。
手早く開封すると、その中身は想像していた通りの内容で
鳴上が固まっていると背後から元気のいい声がかかる。
「悠! お前、携帯忘れてる…って、どうした?」
「陽介……」
咄嗟に封筒を右脇へと隠すと、ぽつりと呟いた。
「陽介…俺がいなくなったらどうする?」
「え? な、なんだそれ…っ」
「……」
意味が分からないと言った様子の花村の表情に
鳴上は苦笑いすると目を伏せる。
「俺が、お前の為に何かを諦めたら?」
「は? ちょ…どうしたんだ、お前…」
「……なんでもない」
上手く言葉が繋がらない鳴上を訝しんだ花村が近寄ろうと
一歩歩み出ると、鳴上は逃げる様に後ずさりした。
「…悠?」
「ごめん、なんでもないんだ…忘れてくれ」
「は? な、なんなんだよ…っ」
「ごめん…おやすみ、陽介」
そう言うと、逃げる様に玄関扉を開けて部屋へと入る。
外では花村が扉へ近寄り、鳴上へと呼び掛ける声が聞こえた。
「悠? どうしたんだ? 悠…っ」
「なんでもないんだ、陽介」
未だ外で聞こえる花村の声にグラグラと揺れながらも
鳴上の意志は決まっていて…吐き出すように声を出す。
「答えなんか、もう出てるじゃないか…」
都会に出てきて暫くして、
お互い別々の部屋を借りての大学生生活。
なんというミラクルか、隣同士の部屋となった二人は
それぞれの部屋を行き来して蜜月と呼んでいい程の、
満ち足りた生活を送っていた。
今日という日を迎えるまでは。
次の日の朝、鳴上は笑顔で花村へと言った。
「別れて下さい」
「は? 悠??」
まるで今朝の朝食の献立を告げられた時みたいに流暢に、
張り付いた笑顔のまま鳴上は花村へと言った。
「別れよう、陽介」
「な、なんで…? え? 俺、なんかした?」
「…なにもしてない、陽介は悪くない。でも別れよう?」
「ちょ…な、なんだそれ、意味わかんねーよ!」
「わからなくていい…いいから、別れよう」
「だからなんで…っ」
花村は思わず立ち上がり、テーブルを叩いた。
けれど、鳴上の目は次を用意してくれている目ではなくて。
全てを拒否する様な眼球からの光に、いつもの穏やかな
まなざしが突然全て消え失せてしまったみたいで、
花村はただ呆然としたまま言葉を失くすしかなかった。
あの後、何度かメールや電話のやり取りをしたけれど
鳴上からの言葉は変わらなくて。
花村は突然のことに、何が何だかわからない。
今日も花村は何度目かのチャレンジとばかりに
隣の部屋にいるはずの鳴上の携帯へとかけていた。
「だーかーら! なんで突然別れようなんて言うんだ
意味わかんねーんだって! なんなんだよ!」
『だから…わからなくていいんだって』
受話器の向こう側から聞こえる溜息に一瞬たじろいだけれど
花村は負けじと続ける。
「ほ、他に好きなヤツが出来た…とか?」
『違う』
「じゃあ……お、俺が嫌になった…とか…」
『それも違う』
「じゃあなんで…っ」
自分が嫌なら仕方ない…色々面倒かけてる自覚はあったし、
他でも思い当たることなら両手に余る程あったから。
だからせめて、理由を聞きたかった…なのに。
『…ごめん』
「は? なんだよ…それ…っ」
途端、声のトーンを落として鳴上が謝罪した。
違う…謝って欲しいわけじゃない、理由を聞きたかったのに。
「そうじゃねー! 俺は理由を…っ」
『…酷いヤツだと思っていいよ』
「は? 何言って…」
『理由もなく別れようって言う酷いヤツだと思っていい』
「なんだそれ意味わかんね…と、とにかく一回会おうって!」
『会わない……もういいか? 切るぞ?』
鳴上からの突き放される様な声。
初めて聞いた拒否に花村は頭が真っ白になる。
つい数日前まで変わった様子なんてなかったし、何度思い
返しても理由になる口論や事象も見つからない、なのに…。
「っ…よくない…っ…俺、嫌だ…っ」
『……もう切る。じゃあ…』
「悠……待って…っ」
『……』
切られそうになる通話を必死で繋ぎ止める様に、
花村は鳴上の名前を呼んだ。
「俺は、まだまだお前と一緒にいるつもりで、
じいさんになった俺らとかもちょっと想像してたりして…」
『……陽介』
「そんな想像の中の俺らだけど、俺はお前となら一緒に
いたいなって思ってて」
その場しのぎの嘘なんかじゃない。
普段隠していた本当の気持ちだった。
花村はそれを『切らないで』と何度も祈りながら言葉にする。
この通話が切れてしまえば、本当に何もかもが
途切れてしまう様な気さえしたから。
「だから、そんなヨボヨボのじいさんになってもお前となら」
『……ごめん、俺は…』
「…っ…悠」
低く響く声に、花村は言葉だけでなく呼吸までもが止まる。
『陽介、別れよう…』
嫌なのに…聞かされる言葉は『別れよう』ばかりで、花村は
逃げる様に交わされる言葉が悲しくて衝動的に叫んだ。
「じゃあもういい! 勝手にしろ!」
最後、花村の声が泣いた様にかすれる。
鳴上はその声に一瞬戸惑った様な呼吸をしたけれど、
それを振り切るみたいに言葉を投げた。
『…じゃあ、おやすみ。……さよなら、花村』
花村はリビングの床へと突っ伏して唸っていた。
「くそ…くそくそ…っ」
泣いた様にかすれたんじゃなくて、もう泣いてた。
自分の思いとは逆に、あっさり切られた通話が悲しくて。
いつの間にか遠くなった距離に気が付いてなかったのか?
いつから? なんで? どうして?
そんな取り返しがつかない時間のことばかり駆け巡る。
「だから、なんでなんだよ……っ」
花村は声を殺して泣いた。
― 一方、鳴上の部屋 ―
切ってしまった通話に、鳴上は焼かれる様な
罪悪感と胸が詰まる様な息苦しさを感じて唸った。
「ごめん、陽介…」
出てくる言葉は謝罪ばかりで、何を言ってもきっと花村の
納得いく言葉が出てくる筈もないことはわかっていた。
だからワザと酷い人を演じてみたけれど、花村に対して
自分がいつも他人にするのと同じ様に演じられるわけもなく。
「ごめん…」
きっと中途半端に傷つけた。
握った携帯が発熱する感触に、まるで責められている様に
感じて、衝動的に隣の部屋に接する壁へと体と耳を寄せた。
すると、かすかに聞こえて来たのは聞き覚えのある嗚咽で、
その声に鳴上の方が死んでしまいたくなる。
「陽介…」
もっと責められると思っていたのに、花村は責めてこない。
それどころか理由を聞いて来て、そして理由を知って、
その上で修復を図ろうとしてくれていた。
「陽介…」
繋ぎ直そうとしてくれる優しい手を自分は振り払ったのだと、
改めて襲ってきた罪悪感にしゃがみ込んだ。
「ごめん、陽介…」
鳴上は泣くことも出来ず、ただ花村の名前を呼び続ける。
暗い部屋に伸びた影が、いつもより色濃く不気味に見えた。
それから数日、お互いにお互いの生活感を
感じてはいたけれどお互いに干渉することもなく。
逆に干渉すること自体が悪いことの様に思えて、まるで
最初から知らない相手同士の様な距離で過ごした。
お互いに生活サイクルが少しずつ違うせいか、
廊下で偶然すれ違うなんてこともなく。
まるで全部が消え失せてしまったかのように、
空白の時間が流れて行った。
『会いたい、会いたい。』
花村は、そんな言葉をいくつもいくつもノートに書いた。
書いていたはずのレポートはとっくに頓挫していて、
定まらない思考と、胸をえぐる様な後悔が襲ってくる。
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こんな感じで続きます。
この下から後日談のエピローグの
サンプルとなっておりますが、こちらを見ると
小説本編の多少のネタバレ?となってしまう為、
『大丈夫!OK!』な方だけお進み下さい。
【 Epilogue 】
「悠…これじゃ俺…抱き枕だって…」
「いいだろ、久しぶりの陽介を堪能したって」
「だ、だってよー…」
深夜、花村はベッドの中で後ろから抱えられた状態に唸る。
シングルベッドに男二人なんて、どう考えたって狭すぎて。
けれど鳴上に引っ張られる様にしてベッドへ入ると、
その後ずっとこの抱き枕状態だった。
「ベッドは一つしかありませんし」
「だ、だから俺がソファで寝るって言ってるじゃんか…っ」
「…嫌か?」
「う…い、嫌なわけねーじゃん……」
嫌じゃない…花村だって嫌がっているようでも、久しぶりの
鳴上の体温が嬉しくてニヤニヤしてしまっているのだから。
「大丈夫だよ…長旅で疲れてる陽介くんに
無理なコトさせたりしません」
「ば…おま…ったく…お前はホント変わんねーな」
「そうか?」
「ああ…変わんねー」
しばらく離れていたから、もしかしたら変わってしまって
いるのかも? と心配したりもしたけれど、杞憂の様だった。
安堵と嬉しさで花村はまたニヤニヤとしてしまう。
「ああ、そうそう。陽介、明日は朝一に
下の階の大家さんに挨拶しにいくぞ」
「へ? な、なんで??」
「知らない男が部屋に入って行ったって心配されたんだ」
「み、見られてたのか? 警察とか呼ばれたりしちゃう??」
花村の跳ねた茶髪がくるりと回ると、鳴上へと向き直り
心配そうな顔色で問いかけてくるから、その様子に鳴上は
ニヤリと微笑むとなんでもないように言った。
「大丈夫だ。『俺の恋人です』って言っておいたから」
「ば……おま…っ」
「本当のことなので、俺は躊躇しませんでした」
焦る花村を見て、鳴上は満足そうにまた笑う。
「……ば、バカか…」
「うん、馬鹿かも」
鳴上がそう言って嬉しそうにまたニヤリと笑うから、
その笑顔に花村は変わらない何かを感じるとつられて笑った。
だが…結果として残念ながら成功する前に頓挫してしまって
いたサプライズ計画に思いを馳せ、花村は重たい溜息を吐く。
「つーか、バレバレじゃん。俺、来てんの」
「まぁ…結果的には」
「あーもう! なんだよーせっかくのサプライズがぁ!」
「いや、十分驚いたよ。本当にいるとは思ってなかったから」
「え? そうなのか?」
「ああ…だったらいいなー的な。俺の願望」
「そ、そっか…へへ…っ」
願望なんてそんな予定に入れてくれるのが嬉しくて、花村が
ニヤつきながら鳴上の腕に触れると違和感を感じ手が止まる。
「…なぁ、悠…なんかさらに体デカくなってねーか?」
「そうか?」
「なってるって! なんかガシガシってなってるって!
うおお…俺…なんかすげー焦るんですけど…」
「…何を焦るんだ?」
「えっと……う、浮気とか……?」
花村の消え入りそうな言葉に、鳴上は眉をしかめた。
「……それ、確か納得済みで送り出してくれたよな?」
「う…ううぅ…ちょっと嫉妬するくらい、いーじゃねーか!」
「嫉妬? してくれたんだ?」
「は? すすす、するだろ! フツー!」
真っ赤な顔の花村が抗議すると、鳴上は意地悪く笑って言う。
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こんな感じで続きます。
何卒宜しくお願い致します~(*´∀`*)ノ
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