Polaris
『ペルソナ4』の鳴上悠×花村陽介(主花)で文字書き。
※BL要素を含んでおりますので閲覧の際にはカテゴリーに在ります【閲覧上の注意事項】をお読みになってからの閲覧をお勧め致します。★関連イラストはpixivのみの公開となっております。★※こちら日本のサイトとなっており、外国のサイトからの無断リンク、または翻訳サイトからのリンクは許可しておりません。
スパーク8新刊:P4主花大学生同棲編合同誌【近距離恋愛】
10月27日開催のスパーク8で発行予定の
主花合同誌のサンプルUPしに来ました~

今回は『Y2』のarisaさんとの二人で
主花が大学生になって同棲してますよーな
素敵なお題で書かせて頂きました。
私は春夏秋冬で、二人の日常とか一悶着とか
を書いた4本立てになっております。
タイトル:【近距離恋愛】
価格:400円(予定)
サンプル(私のだけ)4本分、折りたたみます。
宜しければどうぞどうぞー。
※お品書きは後日またUPしにきますねー(*´∀`*)ノ
【僕たちのカデンツァ:春】
春の麗らかな陽気の下。
同居の為の荷物の整理と虫干しを兼ねての荷物整理を
していると、高校時代の制服を見つけた。
ひとつは勿論あの八十稲羽高校の制服、もうひとつは…
「悠、何してんだ?」
「ああ、都会の高校のころの制服。とってあったみたいで…
懐かしかったから袖通してみたんだけど意外と着られる。
袖の長さが足りないのと、肩がちょっとキツイくらいか…」
俺がそういうと陽介は不満げに『お前はまだ伸びんのかよ…』
とかいうから、俺はニヤリと笑って『育ちざかりですから』と、
いつも通りの他愛もない会話。
そうしていたと思ったらなぜかこちらをチラチラと
伺うような表情の陽介が足早に近寄って来た。
「陽介? どうしたんだ?」
「お、おう…いいから! ちゃんとネクタイ締めて、
最後まで着てみてくれって!」
「ん? 分かった、仕方ないな…
じゃあ、着る一番最初のトコからもう一度…」
「だー! 脱がんでいい! そーじゃねー最後まで着ろ!」
何がどうしたのか、急かされる様に着せられた制服。
俺が訝しんでいると、陽介が口を尖らせて言った。
「だ、だって…それはこっちでの制服だろ?
なら俺はそういうお前を見れてねーじゃん?」
だから、俺が知らないお前を見たい…なんて、最後は
掻き消えてしまう程小さな声で言うから、俺はなんだか
可笑しくなってしまって笑ってしまう。
「ば…笑うなーー!」
「ごめんごめん…で、どうだ? 陽介」
「お、おう……か、かっこいいな…」
「え? 陽介もう一回言って…」
「か、かっこいい…すげー似合う。そういうのもいいな!」
「陽介、もう一回…もっと情熱的に!」
「おうって…おまっ…も、もう二回言ったからダメですぅ!」
「陽介はケチだなー…あと百回くらい聞きたいんだけど」
「アホか! つか、百回も言えるか!」
俺がニヤリとすると、陽介は真っ赤な顔して返してくるから
そんな距離が楽しくて俺はまたニヤリと笑う。
すると、背後に置いてあった木箱の中の小さな紙片に陽介が目を止めた様で、
興味深々で覗き込んできた。
「ああ…そういえば、高校の頃の写真も整理してたんだよ」
「おお、マジでか?! 見る見る、悠の写真!」
「…そんなに面白いものでもないぞ?」
「いいって! 見てーんだから!」
「そうか? えっと…コレが、八十稲羽に行く前の俺か」
嬉々として俺へと写真をねだる陽介へ数枚の写真を渡すと、
案の定というか、陽介はそちらに夢中になる。
「へー! なんか今とちょっと違うな~」
「……で、コレが帰った直後の俺」
「おお! コレコレ! 悠って感じ!」
「うん…情けない顔してる」
「え? そうか? うーん…少し元気無い感じはするけど…」
「情けない顔してる……陽介がいないから」
「は? え、えっと…」
「なんてな…ごめん、変なこと言ったな」
「ば、バカ! そんな風に言われたらさ…」
俺が目を伏せてそう言うと、陽介は何を思ったのか
写真の中の俺を見つめたまま動かなくなってしまった。
「ごめん、本当に悪かったって…陽介?」
「…悠、この写真くれ!」
「は? え…いや…それはちょっと…」
「え? だ、ダメか?」
「なんかみっともないし……そんなに面白かったのか?」
「面白いってよりかは、さっきも言ったけど、
俺の知らない悠を知りたいとゆーか…」
「うん…」
「お前にこういう顔させないように、俺が頑張るとゆーか…」
「陽介…」
「まあ、ぶっちゃけ純粋に、お前の写真が欲しいので下さい」
「…仕方ないので上げます。」
「んだよ、素直じゃねーな…ま、いっか…へへ、いいなこれ」
情けない顔してる俺の写真を嬉しそうに見る陽介。
実の所、俺としては結構恥ずかしい写真なんだけど自分が
いなくて寂しがってる俺の写真が、どうやらウチの王子様の
お気に召した様で、なかなか視線をそこから離そうとしない。
・
・
・
【僕たちのカデンツァ:夏】
「ダメだ、陽介。ほら起き上がって…」
「わ、わーってるよ! 床つめてーから、もうちょっと~」
「まったく…」
暑さのせいでだらしなくフローリングの床へと
寝そべる俺を、悠は怪訝な顔つきで見下ろした。
頼みのエアコンは故障中で、修理は来週の予定。
そんな中でゼミの仲間が捨てるって言っていた扇風機を
譲って貰えたのは幸いだったけれど、だからといって扇風機
一台で涼しくなるわけもなく…暑さの苦手な俺がだらだらと
過ごしてしまうのは仕方のないことで…。
「うーうー…あちーよー…」
「まぁ、暑いは暑いけど。陽介はだらしなさ過ぎだよ」
「ううぅ…だって、あちーもんはあちーんだよ!」
唸りつつ隣へと視線だけ移すと、涼しげな様子の相棒がいた。
「なあ、悠は暑いのとかヘーキなのか?」
「いや、苦手…どっちかって言うと」
「えー? 結構余裕そうですけどー?」
意外な答えに俺が口を尖らせて返答すると、悠は口の端で
笑いながらワザとらしく小首を傾げて言った。
「そんな風に見えますか?」
「見えますよ~超ヨユーな感じ~」
「ふーん……なあ、陽介…床って気持ちいいのか?」
「ん? おう! 結構つめてーし!」
「そうか…俺もやってみようかな」
「え? お、おう…」
そう言って唐突に悠は俺の隣へと寝転んだ。
サラサラとした前髪が扇風機の風でふわふわなびく。
俺がその動きに見惚れていると、悠はニヤリと笑って言った。
「うん、冷たいな」
「お、おう…だろ? 結構いいよなー」
その笑顔に、いつも予想がつかない相棒がまた今日も予想の
斜め上を行く発言をして、俺を驚かせるんだろう予感がした。
「…こうしているといつもと違うものが見えて面白いな」
「は? 床に寝転んでるだけで?」
ほら、始まった…床に寝転べば見えるのは天井だけのはずで。
今、俺から見える景色はやっぱり天井だけで…。
もしや、お前のいる位置からは違うものが見えるのか? と
覗き込んでみたんだけど、やはり見えたのは同じ天井だった。
「陽介といるとさ、したことないことばかりするな…」
「は? そ、そうか?」
「うん…床に寝そべってダラダラするなんて初めてかも」
「そ、そっか…」
「うん…色々考えるなー」
「た、例えばなにを?」
予想のつかない終着点へと走り続ける会話に俺は首をひねる。
見えたのは天井で、隣にいるのは相棒で、床が気持ち良くて。
俺の頭が混乱してくるころ、悠が天井を指差し言った。
「あの天井のシミは………この間、陽介が味噌汁持ったまま
ひっくり返って盛大に跳ねた味噌汁のシミかな? とか」
「そ、そーいうのはいいんですぅぅ!
ってか、おま…からかってんだろ!」
「違うよ…ほら、あそこの壁のアレも」
「え? な、なんだよ?」
「この間………ほら、陽介が○×■△●▲…みたいな」
「わー! わー! も、もうやめたげてええぇぇーー!」
「はぁ…ココ、賃貸なのに…」
「ううぅ…すみません…」
俺が顔を両手で覆う様に隠して唸ると、ソレを見て苦笑した
悠が溜息と一緒に呟くように言った。
「まぁ…ずっとココに二人で住んでれば、経年でチャラか…」
「は? え? ココにずっと? 俺ら二人で?」
「…………ごめん、なんでもない」
途端、悠は饒舌だった会話を止めて、俺へと背を向けつつ
体を返して猫みたいに丸まるから、その言葉の意味と悠の
仕草に俺はなんとも言えない程嬉しくてニヤニヤしてしまう。
「悠? どした? なぁ…」
つまりは一緒にずっと…みたいなのかな? って。
そんなの俺としては願ったり、叶ったりなんだけど、
そういうのって実は相棒の方が真面目に考えているみたいで。
「陽介…お前、いまニヤニヤしてるだろ?」
「いいえ、ぜんぜんこれっぽっちもニヤニヤしてませんー」
いや、ホントはしてんだけど…次が聞いてみたくて我慢する。
こんな風になるお前は、滅多に見られないから。
・
・
・
【僕たちのカデンツァ:秋】
「たらいまぁぁーー悠ぅー」
「え? ちょ…陽介?」
ベッドに寝ている俺に突然覆い被さってきたのは
誰でも無い同棲相手で、恋人で。
初めての経験に、俺は思わず体を硬直させた。
多忙の為、お互いすれ違いの生活が続いていた、ある秋の日。
飲み会予定の陽介から『悪ぃ! 先寝ててくれ!』って
今月何度目かの連絡が入ったのが確か二時間前位。
どうやら盛り上がった飲み会だった様で、なかなか
抜けられないとのことだった。
人がいい陽介のことだから、酔い潰れた同期の面倒とか、
幹事の手伝いとかかって出たんだろうことは想像に容易い。
俺は了解の返信を入れると、後片付けと明日の用意をして
火の元・戸締りを確認するとベッドへと入った。
そういえば、暫く触れあえてないな…なんてことも考えつつ、
どうか、なるべく早く陽介が解放されますようにと祈って。
所が夜半過ぎ…心地良い眠りが来るころ、突如鈍い音がして
俺の体がベッドの中心へと二人分の体重を支えて沈んだ。
「うー…たらいまーー悠ぅぅlー!」
「……おかえり、陽介」
眠りに襲われる前に陽介に襲われた…しかもかなりの上機嫌。
真っ赤な顔をしつつもニコニコ微笑んで俺の上にまたがる
陽介は、このアレな状態とは全く関係無い言葉を吐き出した。
「ごはんおいしかったれす! でも、お前の作る
ごはんの方がもっとおいしいれすーあははー」
「えっと…陽介??」
真っ赤な顔と焦点の合わない視線…完全に酔っぱらっている。
何がどうしてここまでって思うけれど、陽介のこういう姿も
可愛いと思ってしまうのだから俺も大概どうしようもない。
「はいはい、ありがとうございます…
とりあえず陽介、降りてくれ。さすがにこれはちょっと…」
「うーー…嫌でーーす! たまには俺が上でーす!」
「は? ……え、えっと?」
「なーんちゃって、あははーーーっ」
「……陽介…」
……こういう陽介も、もちろん可愛くていいんだけど…
これで流されたら、明日の朝全く覚えていない&起き抜け
大騒ぎが想像出来る…色々なアレはぐっと我慢だ、俺。
「えっと、あのな……陽介、意味分かってるか?」
「んーわかってんよ? あったりまえじゃーん! あはは!」
「……うん、俺が悪かった…本当に俺が悪かった。」
「うー? 悠―?」
ダメだ…可愛い…じゃなくて…ダメだ、本当に分かってない。
なんかこう僅かな罪悪感とか、ガッカリ感とか色々な感情に
振り回されつつ俺が唸ると、陽介がボソリと呟いた。
「悠…俺、食べたい」
「は? 陽介??」
「今日食った、あの鍋食べたい! 悠、今度作ってくれよ~」
「あーはいはい。ちょっとでも卑猥なこと想像した
俺が馬鹿でした。反省してます」
ああ、ダメだ…どうしても思考がそっちに展開しそうになる。
今の俺はただの欲求不満なんだろうけど…この状況は…。
俺がため息交じりに答えると、陽介は不満げにベッドに
寝転がり、駄々をこねるみたいに足をバタつかせて動き回る。
「なんだよー作ってくんねーのかよぉ…悠のバカぁ…」
「はいはい、作るから泣くなよ、陽介」
「泣いてませぇん! いつもそーやって俺をからかって…っ」
「別にからかってるわけじゃ…ほら陽介、起きてくれって」
「やだ! やだやだ! ぜってーやだ!」
「…どうしたんだよ、今日は」
「お前、全然俺こと分かってなーい! こうやって俺が…っ」
「こうやって陽介が?」
「……こうやって…こう…ううぅぅー」
「もう、なんなんだよ…」
何があったんだ? 今夜は一体どうしたんだ?
珍しくタチの悪い酔い方をしている姿に、ほとほと困り果て
俺はジタバタする陽介の体を抱え無理矢理起き上がらせた。
「違う違う! そーじゃねーっ…悠のバカぁーー!」
「暴れるなって…陽介がどかないからだろ? もう…」
「うう…悠……」
「ん? なんだ? どうしたんだ?」
俺の言葉に途端陽介が瞳を潤ませると、懇願する様に言った。
「だってなんかみんなして彼女といちゃちゃしやがって…っ」
「え?……えーと…うん? 陽介?」
「俺だって悠と…って…らから、超飲みまくってこんなトコ
早く抜けて、帰って悠とギューってしよう! って…っ」
「分かった、分かったから…陽介、ホントちょっとストップ」
しかし陽介は俺が制止するもの聞かないで、俺の腹部へと
顔を埋め、ウエストを両腕で抱えると力いっぱい抱きしめた。
「悠―たらいまーーーギュー!」
「…あの…陽介…俺、そろそろ限界なんだけど?」
・
・
・
【僕たちのカデンツァ:冬】
「悪い…っ…どこに置いたんだろう」
「悠、いいって! そりゃ高校んときからつけてたけど…」
「でも、それくらい毎日つけてたってことだろ?
やっぱりダメだ、見つけないと。」
「悠? お、おい…」
珍しいこともあったもんだ。
俺から借りた指輪を悠が失くした。
高校ん時からよく身に着けていたプレーンリング。
部屋の中で失くしたそうだから、部屋のどこかに
あるんだろうけど、どうやら悠が覚えていた場所の
どこにも無いらしくて、途端悠が焦って探し始めた。
高校時代…あの八十稲羽の日々で毎日身に着けていた
なんてこともない安物の指輪。
正直、どこで買ったのかも定かでないくらいで。
でもそれが俺にとって大切な品物に感じたんだろうか?
悠が唐突に貸してほしいと言い出して、
俺もそこまでの思いも無かったから、気軽に貸したんだ。
で…今に至るんだけど…。
「無い…っ…何処に」
「お、おい…悠、ホントいいって!」
「ダメだ、見つけないと!」
部屋中、あちこちひっくり返して探す姿に
いつもの余裕なんて微塵もなかった。
その様子に俺は呆気にとられるんだけど、なんだか段々と
その姿がボロボロになってくみたいで、見ていられなく
なってきて…少し声を強めて悠の腕を取り制止した。
「悠、ホント俺いいから!」
「……もしかしたら外で失くしたのかも…外、探してくる」
「お、おいおい! バカか! どこまで探し歩くつもり
なんだよ…っ 見つかる訳ねーだろ!」
「探す…絶対に。見つかるまで帰らない」
「ばっ…なに言ってんだお前は!」
始まった…ムキになるといつもこうだ。
絶対引かない…いつもの悪いクセが出てきちまってる。
俺が怒鳴ると悠は憔悴した表情でうつむくと、ボソリと
聞こえるか聞こえないかくらいの声のトーンで返して来た。
「だって…思い出とかあるだろ? 八十稲羽での色々な…」
「は? え? あ…っと…おま…もしかして」
ああ…なんとなく分かってしまった。
お前はきっとあの人のことを言ってるんだろう。
まさかこんなに時間が経ってまで、あの人のことを言って
くれるなんて俺は思ってもみなかったから、当事者の
俺の方が驚いてしまった。
たかだか、安物の指輪一つに悠がそこまで目を向けていて
くれたなんて夢にも思っていなかったから。
「そ、そんなに大事なもんでもない…もういいんだって…っ」
俺が言いかけて口ごもると、違う意味に取ったのか
悠が焦りとか何か色々なものを抱えた表情で返して来た。
「ダメだ。指輪、必ず見つけて帰るから。」
「そんな気にするもんじゃないんだって言ってんだろ!」
青ざめた様子の悠がそう言ってドアノブに手をかけたから
俺はそれを遮るみたいにその白い手首を掴む。
「陽介が気にしなくても、俺が気にする。」
「そ、それでも気にすんなって言ったら?」
「……お前がそうでも、それでも尚且つ俺は気にする。」
「バカか、お前は!」
馬鹿なんだよ、俺は…って、なんだか掻き消えて
しまいそうな声でやっとやっと呟く悠。
うつむく姿にごめんって何度も何度も謝られている気がして、
なんだか俺の方が申し訳ない気持ちになって来てしまう。
「本当にごめん。絶対に見つけて見せるから。」
「悠…っ!」
こんなことになるなら、指輪なんて貸さなければ良かった。
今更の後悔をする俺を尻目に、悠はまるで飛び出すみたいに
部屋を出て行った。
「あのバカ…っ」
あんな安物の指輪に大切な思い出が詰まっているとか、
誰かとの思い出の品とか…そんなことあるわけがなくて。
なのにそれでも、そんなものでも後生大事に身に着けていた
指輪…悠はそれを見て、どんな風に感じていたんだろう?
嫉妬? 焦燥? 妬み?
どれもこれも悠には不似合いな感情の様に思えて。
でも、きっと悠にだってそれはあるだろうから俺は悠の
随分ときれいな部分ばかりを見せて貰えていたんだと
なんだか今更に悔しくて。
小さく歯ぎしりすると近くにあったコートを掴み、あの広い
背中を追いかける為に俺も玄関から飛び出した。
近くのスーパーや、悠がよく利用する本屋、雑貨屋に薬局。
それらの店や駅周辺探すと、どうやら悠が来た様では
あるんだけど、その姿をみつけることまでは出来なかった。
しかも駅じゃ、ちょっとした騒ぎになってて
『イケメンが指輪探してる』とか、
『イケメンが指輪を贈る相手を探してる』とか、
『イケメンに指輪を贈ると願いが叶う』とか。
あることないことごちゃまぜにして皆口々に話題にしてた。
そりゃそうだ、あんなイケメンが必死の形相で
『指輪、知りませんか?』なんて、聞いてきたら
遠回しのナンパだって思われても仕方ない。
まぁ、そう思いたい気持ちも分からなくもねーっつーか…。
いやいや! そうじゃねーだろ、俺! しっかり、俺!
ニヤニヤしそうになる顔を叩いて気を引き締める。
とりあえず、早くあのイケメン探して連れて帰らねーと!
「つーか、なんでこんなに寒いんだ?!
こんなんじゃアイツ凍えちまう…っ」
その後も走り回って探したけどやっぱり何処にも見つからず。
そのうち空は曇って、雪でも降りそうな位になって来て。
重たい雲が視界を覆う不安から、もしかしたらアイツが
先輩みたいにこのままずっと帰って来ないんじゃないかって、
もう二度と会えないんじゃないかって、そんな最悪のこと
ばかりがよぎるから、俺は混乱して息が上がってきてしまう。
二人の面影が降って来て俺は益々混乱してどうしようもない。
「どこだよ…っ…つーかなんでこんな混乱してんだ…俺は…」
イラつき呻きながらも、あらかた探し歩いた所で、
ふと思いついた場所があった。
それは買い物帰りによく二人で眺める河原。
『鮫川に似てるよなー』とかよく言ってたっけ。
嫌な予感を感じて河原へと向かうと秋の枯れた茂みの中、
見覚えのある背中が這いつくばって何かを探していた。
・
・
・
こんな感じで4本立てです。
何卒よしなに。
主花合同誌のサンプルUPしに来ました~
今回は『Y2』のarisaさんとの二人で
主花が大学生になって同棲してますよーな
素敵なお題で書かせて頂きました。
私は春夏秋冬で、二人の日常とか一悶着とか
を書いた4本立てになっております。
タイトル:【近距離恋愛】
価格:400円(予定)
サンプル(私のだけ)4本分、折りたたみます。
宜しければどうぞどうぞー。
※お品書きは後日またUPしにきますねー(*´∀`*)ノ
【僕たちのカデンツァ:春】
春の麗らかな陽気の下。
同居の為の荷物の整理と虫干しを兼ねての荷物整理を
していると、高校時代の制服を見つけた。
ひとつは勿論あの八十稲羽高校の制服、もうひとつは…
「悠、何してんだ?」
「ああ、都会の高校のころの制服。とってあったみたいで…
懐かしかったから袖通してみたんだけど意外と着られる。
袖の長さが足りないのと、肩がちょっとキツイくらいか…」
俺がそういうと陽介は不満げに『お前はまだ伸びんのかよ…』
とかいうから、俺はニヤリと笑って『育ちざかりですから』と、
いつも通りの他愛もない会話。
そうしていたと思ったらなぜかこちらをチラチラと
伺うような表情の陽介が足早に近寄って来た。
「陽介? どうしたんだ?」
「お、おう…いいから! ちゃんとネクタイ締めて、
最後まで着てみてくれって!」
「ん? 分かった、仕方ないな…
じゃあ、着る一番最初のトコからもう一度…」
「だー! 脱がんでいい! そーじゃねー最後まで着ろ!」
何がどうしたのか、急かされる様に着せられた制服。
俺が訝しんでいると、陽介が口を尖らせて言った。
「だ、だって…それはこっちでの制服だろ?
なら俺はそういうお前を見れてねーじゃん?」
だから、俺が知らないお前を見たい…なんて、最後は
掻き消えてしまう程小さな声で言うから、俺はなんだか
可笑しくなってしまって笑ってしまう。
「ば…笑うなーー!」
「ごめんごめん…で、どうだ? 陽介」
「お、おう……か、かっこいいな…」
「え? 陽介もう一回言って…」
「か、かっこいい…すげー似合う。そういうのもいいな!」
「陽介、もう一回…もっと情熱的に!」
「おうって…おまっ…も、もう二回言ったからダメですぅ!」
「陽介はケチだなー…あと百回くらい聞きたいんだけど」
「アホか! つか、百回も言えるか!」
俺がニヤリとすると、陽介は真っ赤な顔して返してくるから
そんな距離が楽しくて俺はまたニヤリと笑う。
すると、背後に置いてあった木箱の中の小さな紙片に陽介が目を止めた様で、
興味深々で覗き込んできた。
「ああ…そういえば、高校の頃の写真も整理してたんだよ」
「おお、マジでか?! 見る見る、悠の写真!」
「…そんなに面白いものでもないぞ?」
「いいって! 見てーんだから!」
「そうか? えっと…コレが、八十稲羽に行く前の俺か」
嬉々として俺へと写真をねだる陽介へ数枚の写真を渡すと、
案の定というか、陽介はそちらに夢中になる。
「へー! なんか今とちょっと違うな~」
「……で、コレが帰った直後の俺」
「おお! コレコレ! 悠って感じ!」
「うん…情けない顔してる」
「え? そうか? うーん…少し元気無い感じはするけど…」
「情けない顔してる……陽介がいないから」
「は? え、えっと…」
「なんてな…ごめん、変なこと言ったな」
「ば、バカ! そんな風に言われたらさ…」
俺が目を伏せてそう言うと、陽介は何を思ったのか
写真の中の俺を見つめたまま動かなくなってしまった。
「ごめん、本当に悪かったって…陽介?」
「…悠、この写真くれ!」
「は? え…いや…それはちょっと…」
「え? だ、ダメか?」
「なんかみっともないし……そんなに面白かったのか?」
「面白いってよりかは、さっきも言ったけど、
俺の知らない悠を知りたいとゆーか…」
「うん…」
「お前にこういう顔させないように、俺が頑張るとゆーか…」
「陽介…」
「まあ、ぶっちゃけ純粋に、お前の写真が欲しいので下さい」
「…仕方ないので上げます。」
「んだよ、素直じゃねーな…ま、いっか…へへ、いいなこれ」
情けない顔してる俺の写真を嬉しそうに見る陽介。
実の所、俺としては結構恥ずかしい写真なんだけど自分が
いなくて寂しがってる俺の写真が、どうやらウチの王子様の
お気に召した様で、なかなか視線をそこから離そうとしない。
・
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【僕たちのカデンツァ:夏】
「ダメだ、陽介。ほら起き上がって…」
「わ、わーってるよ! 床つめてーから、もうちょっと~」
「まったく…」
暑さのせいでだらしなくフローリングの床へと
寝そべる俺を、悠は怪訝な顔つきで見下ろした。
頼みのエアコンは故障中で、修理は来週の予定。
そんな中でゼミの仲間が捨てるって言っていた扇風機を
譲って貰えたのは幸いだったけれど、だからといって扇風機
一台で涼しくなるわけもなく…暑さの苦手な俺がだらだらと
過ごしてしまうのは仕方のないことで…。
「うーうー…あちーよー…」
「まぁ、暑いは暑いけど。陽介はだらしなさ過ぎだよ」
「ううぅ…だって、あちーもんはあちーんだよ!」
唸りつつ隣へと視線だけ移すと、涼しげな様子の相棒がいた。
「なあ、悠は暑いのとかヘーキなのか?」
「いや、苦手…どっちかって言うと」
「えー? 結構余裕そうですけどー?」
意外な答えに俺が口を尖らせて返答すると、悠は口の端で
笑いながらワザとらしく小首を傾げて言った。
「そんな風に見えますか?」
「見えますよ~超ヨユーな感じ~」
「ふーん……なあ、陽介…床って気持ちいいのか?」
「ん? おう! 結構つめてーし!」
「そうか…俺もやってみようかな」
「え? お、おう…」
そう言って唐突に悠は俺の隣へと寝転んだ。
サラサラとした前髪が扇風機の風でふわふわなびく。
俺がその動きに見惚れていると、悠はニヤリと笑って言った。
「うん、冷たいな」
「お、おう…だろ? 結構いいよなー」
その笑顔に、いつも予想がつかない相棒がまた今日も予想の
斜め上を行く発言をして、俺を驚かせるんだろう予感がした。
「…こうしているといつもと違うものが見えて面白いな」
「は? 床に寝転んでるだけで?」
ほら、始まった…床に寝転べば見えるのは天井だけのはずで。
今、俺から見える景色はやっぱり天井だけで…。
もしや、お前のいる位置からは違うものが見えるのか? と
覗き込んでみたんだけど、やはり見えたのは同じ天井だった。
「陽介といるとさ、したことないことばかりするな…」
「は? そ、そうか?」
「うん…床に寝そべってダラダラするなんて初めてかも」
「そ、そっか…」
「うん…色々考えるなー」
「た、例えばなにを?」
予想のつかない終着点へと走り続ける会話に俺は首をひねる。
見えたのは天井で、隣にいるのは相棒で、床が気持ち良くて。
俺の頭が混乱してくるころ、悠が天井を指差し言った。
「あの天井のシミは………この間、陽介が味噌汁持ったまま
ひっくり返って盛大に跳ねた味噌汁のシミかな? とか」
「そ、そーいうのはいいんですぅぅ!
ってか、おま…からかってんだろ!」
「違うよ…ほら、あそこの壁のアレも」
「え? な、なんだよ?」
「この間………ほら、陽介が○×■△●▲…みたいな」
「わー! わー! も、もうやめたげてええぇぇーー!」
「はぁ…ココ、賃貸なのに…」
「ううぅ…すみません…」
俺が顔を両手で覆う様に隠して唸ると、ソレを見て苦笑した
悠が溜息と一緒に呟くように言った。
「まぁ…ずっとココに二人で住んでれば、経年でチャラか…」
「は? え? ココにずっと? 俺ら二人で?」
「…………ごめん、なんでもない」
途端、悠は饒舌だった会話を止めて、俺へと背を向けつつ
体を返して猫みたいに丸まるから、その言葉の意味と悠の
仕草に俺はなんとも言えない程嬉しくてニヤニヤしてしまう。
「悠? どした? なぁ…」
つまりは一緒にずっと…みたいなのかな? って。
そんなの俺としては願ったり、叶ったりなんだけど、
そういうのって実は相棒の方が真面目に考えているみたいで。
「陽介…お前、いまニヤニヤしてるだろ?」
「いいえ、ぜんぜんこれっぽっちもニヤニヤしてませんー」
いや、ホントはしてんだけど…次が聞いてみたくて我慢する。
こんな風になるお前は、滅多に見られないから。
・
・
・
【僕たちのカデンツァ:秋】
「たらいまぁぁーー悠ぅー」
「え? ちょ…陽介?」
ベッドに寝ている俺に突然覆い被さってきたのは
誰でも無い同棲相手で、恋人で。
初めての経験に、俺は思わず体を硬直させた。
多忙の為、お互いすれ違いの生活が続いていた、ある秋の日。
飲み会予定の陽介から『悪ぃ! 先寝ててくれ!』って
今月何度目かの連絡が入ったのが確か二時間前位。
どうやら盛り上がった飲み会だった様で、なかなか
抜けられないとのことだった。
人がいい陽介のことだから、酔い潰れた同期の面倒とか、
幹事の手伝いとかかって出たんだろうことは想像に容易い。
俺は了解の返信を入れると、後片付けと明日の用意をして
火の元・戸締りを確認するとベッドへと入った。
そういえば、暫く触れあえてないな…なんてことも考えつつ、
どうか、なるべく早く陽介が解放されますようにと祈って。
所が夜半過ぎ…心地良い眠りが来るころ、突如鈍い音がして
俺の体がベッドの中心へと二人分の体重を支えて沈んだ。
「うー…たらいまーー悠ぅぅlー!」
「……おかえり、陽介」
眠りに襲われる前に陽介に襲われた…しかもかなりの上機嫌。
真っ赤な顔をしつつもニコニコ微笑んで俺の上にまたがる
陽介は、このアレな状態とは全く関係無い言葉を吐き出した。
「ごはんおいしかったれす! でも、お前の作る
ごはんの方がもっとおいしいれすーあははー」
「えっと…陽介??」
真っ赤な顔と焦点の合わない視線…完全に酔っぱらっている。
何がどうしてここまでって思うけれど、陽介のこういう姿も
可愛いと思ってしまうのだから俺も大概どうしようもない。
「はいはい、ありがとうございます…
とりあえず陽介、降りてくれ。さすがにこれはちょっと…」
「うーー…嫌でーーす! たまには俺が上でーす!」
「は? ……え、えっと?」
「なーんちゃって、あははーーーっ」
「……陽介…」
……こういう陽介も、もちろん可愛くていいんだけど…
これで流されたら、明日の朝全く覚えていない&起き抜け
大騒ぎが想像出来る…色々なアレはぐっと我慢だ、俺。
「えっと、あのな……陽介、意味分かってるか?」
「んーわかってんよ? あったりまえじゃーん! あはは!」
「……うん、俺が悪かった…本当に俺が悪かった。」
「うー? 悠―?」
ダメだ…可愛い…じゃなくて…ダメだ、本当に分かってない。
なんかこう僅かな罪悪感とか、ガッカリ感とか色々な感情に
振り回されつつ俺が唸ると、陽介がボソリと呟いた。
「悠…俺、食べたい」
「は? 陽介??」
「今日食った、あの鍋食べたい! 悠、今度作ってくれよ~」
「あーはいはい。ちょっとでも卑猥なこと想像した
俺が馬鹿でした。反省してます」
ああ、ダメだ…どうしても思考がそっちに展開しそうになる。
今の俺はただの欲求不満なんだろうけど…この状況は…。
俺がため息交じりに答えると、陽介は不満げにベッドに
寝転がり、駄々をこねるみたいに足をバタつかせて動き回る。
「なんだよー作ってくんねーのかよぉ…悠のバカぁ…」
「はいはい、作るから泣くなよ、陽介」
「泣いてませぇん! いつもそーやって俺をからかって…っ」
「別にからかってるわけじゃ…ほら陽介、起きてくれって」
「やだ! やだやだ! ぜってーやだ!」
「…どうしたんだよ、今日は」
「お前、全然俺こと分かってなーい! こうやって俺が…っ」
「こうやって陽介が?」
「……こうやって…こう…ううぅぅー」
「もう、なんなんだよ…」
何があったんだ? 今夜は一体どうしたんだ?
珍しくタチの悪い酔い方をしている姿に、ほとほと困り果て
俺はジタバタする陽介の体を抱え無理矢理起き上がらせた。
「違う違う! そーじゃねーっ…悠のバカぁーー!」
「暴れるなって…陽介がどかないからだろ? もう…」
「うう…悠……」
「ん? なんだ? どうしたんだ?」
俺の言葉に途端陽介が瞳を潤ませると、懇願する様に言った。
「だってなんかみんなして彼女といちゃちゃしやがって…っ」
「え?……えーと…うん? 陽介?」
「俺だって悠と…って…らから、超飲みまくってこんなトコ
早く抜けて、帰って悠とギューってしよう! って…っ」
「分かった、分かったから…陽介、ホントちょっとストップ」
しかし陽介は俺が制止するもの聞かないで、俺の腹部へと
顔を埋め、ウエストを両腕で抱えると力いっぱい抱きしめた。
「悠―たらいまーーーギュー!」
「…あの…陽介…俺、そろそろ限界なんだけど?」
・
・
・
【僕たちのカデンツァ:冬】
「悪い…っ…どこに置いたんだろう」
「悠、いいって! そりゃ高校んときからつけてたけど…」
「でも、それくらい毎日つけてたってことだろ?
やっぱりダメだ、見つけないと。」
「悠? お、おい…」
珍しいこともあったもんだ。
俺から借りた指輪を悠が失くした。
高校ん時からよく身に着けていたプレーンリング。
部屋の中で失くしたそうだから、部屋のどこかに
あるんだろうけど、どうやら悠が覚えていた場所の
どこにも無いらしくて、途端悠が焦って探し始めた。
高校時代…あの八十稲羽の日々で毎日身に着けていた
なんてこともない安物の指輪。
正直、どこで買ったのかも定かでないくらいで。
でもそれが俺にとって大切な品物に感じたんだろうか?
悠が唐突に貸してほしいと言い出して、
俺もそこまでの思いも無かったから、気軽に貸したんだ。
で…今に至るんだけど…。
「無い…っ…何処に」
「お、おい…悠、ホントいいって!」
「ダメだ、見つけないと!」
部屋中、あちこちひっくり返して探す姿に
いつもの余裕なんて微塵もなかった。
その様子に俺は呆気にとられるんだけど、なんだか段々と
その姿がボロボロになってくみたいで、見ていられなく
なってきて…少し声を強めて悠の腕を取り制止した。
「悠、ホント俺いいから!」
「……もしかしたら外で失くしたのかも…外、探してくる」
「お、おいおい! バカか! どこまで探し歩くつもり
なんだよ…っ 見つかる訳ねーだろ!」
「探す…絶対に。見つかるまで帰らない」
「ばっ…なに言ってんだお前は!」
始まった…ムキになるといつもこうだ。
絶対引かない…いつもの悪いクセが出てきちまってる。
俺が怒鳴ると悠は憔悴した表情でうつむくと、ボソリと
聞こえるか聞こえないかくらいの声のトーンで返して来た。
「だって…思い出とかあるだろ? 八十稲羽での色々な…」
「は? え? あ…っと…おま…もしかして」
ああ…なんとなく分かってしまった。
お前はきっとあの人のことを言ってるんだろう。
まさかこんなに時間が経ってまで、あの人のことを言って
くれるなんて俺は思ってもみなかったから、当事者の
俺の方が驚いてしまった。
たかだか、安物の指輪一つに悠がそこまで目を向けていて
くれたなんて夢にも思っていなかったから。
「そ、そんなに大事なもんでもない…もういいんだって…っ」
俺が言いかけて口ごもると、違う意味に取ったのか
悠が焦りとか何か色々なものを抱えた表情で返して来た。
「ダメだ。指輪、必ず見つけて帰るから。」
「そんな気にするもんじゃないんだって言ってんだろ!」
青ざめた様子の悠がそう言ってドアノブに手をかけたから
俺はそれを遮るみたいにその白い手首を掴む。
「陽介が気にしなくても、俺が気にする。」
「そ、それでも気にすんなって言ったら?」
「……お前がそうでも、それでも尚且つ俺は気にする。」
「バカか、お前は!」
馬鹿なんだよ、俺は…って、なんだか掻き消えて
しまいそうな声でやっとやっと呟く悠。
うつむく姿にごめんって何度も何度も謝られている気がして、
なんだか俺の方が申し訳ない気持ちになって来てしまう。
「本当にごめん。絶対に見つけて見せるから。」
「悠…っ!」
こんなことになるなら、指輪なんて貸さなければ良かった。
今更の後悔をする俺を尻目に、悠はまるで飛び出すみたいに
部屋を出て行った。
「あのバカ…っ」
あんな安物の指輪に大切な思い出が詰まっているとか、
誰かとの思い出の品とか…そんなことあるわけがなくて。
なのにそれでも、そんなものでも後生大事に身に着けていた
指輪…悠はそれを見て、どんな風に感じていたんだろう?
嫉妬? 焦燥? 妬み?
どれもこれも悠には不似合いな感情の様に思えて。
でも、きっと悠にだってそれはあるだろうから俺は悠の
随分ときれいな部分ばかりを見せて貰えていたんだと
なんだか今更に悔しくて。
小さく歯ぎしりすると近くにあったコートを掴み、あの広い
背中を追いかける為に俺も玄関から飛び出した。
近くのスーパーや、悠がよく利用する本屋、雑貨屋に薬局。
それらの店や駅周辺探すと、どうやら悠が来た様では
あるんだけど、その姿をみつけることまでは出来なかった。
しかも駅じゃ、ちょっとした騒ぎになってて
『イケメンが指輪探してる』とか、
『イケメンが指輪を贈る相手を探してる』とか、
『イケメンに指輪を贈ると願いが叶う』とか。
あることないことごちゃまぜにして皆口々に話題にしてた。
そりゃそうだ、あんなイケメンが必死の形相で
『指輪、知りませんか?』なんて、聞いてきたら
遠回しのナンパだって思われても仕方ない。
まぁ、そう思いたい気持ちも分からなくもねーっつーか…。
いやいや! そうじゃねーだろ、俺! しっかり、俺!
ニヤニヤしそうになる顔を叩いて気を引き締める。
とりあえず、早くあのイケメン探して連れて帰らねーと!
「つーか、なんでこんなに寒いんだ?!
こんなんじゃアイツ凍えちまう…っ」
その後も走り回って探したけどやっぱり何処にも見つからず。
そのうち空は曇って、雪でも降りそうな位になって来て。
重たい雲が視界を覆う不安から、もしかしたらアイツが
先輩みたいにこのままずっと帰って来ないんじゃないかって、
もう二度と会えないんじゃないかって、そんな最悪のこと
ばかりがよぎるから、俺は混乱して息が上がってきてしまう。
二人の面影が降って来て俺は益々混乱してどうしようもない。
「どこだよ…っ…つーかなんでこんな混乱してんだ…俺は…」
イラつき呻きながらも、あらかた探し歩いた所で、
ふと思いついた場所があった。
それは買い物帰りによく二人で眺める河原。
『鮫川に似てるよなー』とかよく言ってたっけ。
嫌な予感を感じて河原へと向かうと秋の枯れた茂みの中、
見覚えのある背中が這いつくばって何かを探していた。
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こんな感じで4本立てです。
何卒よしなに。
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