Polaris
【うたかたの雪 鳴上】
創作でございます。
雪
怖い
時間
な、感じで。
いってらっしゃいませ。
※少し追記&修正
授業が終わってふと窓の外を見ると、
雪が降っていた。
久しぶりに見た光景に俺は見とれると共に、
もうこんな季節になってしまったのかと、
酷い焦燥感に囚われた。
ここに居られるのもあと少し。
この雪が何度か降って、
地表の暖かさに跡形もなく無くなる頃、
きっと俺はここにはもう居ないだろう。
そんな俺にも、外の様子にも気づかない陽介は
賑やかに放課後を喜ぶと、俺を促して教室を飛び出した。
「おーーー!悠!雪!」
「あ…本当だ…積もるかな…」
やっぱり今気づいたのか。
なんだか陽介の様子が
少し面白くて苦笑しつつ
俺は知らないふりをした。
「さぁな…何?積もって欲しいのか?」
「いや…そこまでじゃないけど」
この雪が積もって、
ココの風景を変えたら、
また俺の時間は短くなる。
それはきっと大切な時間の
営みというものなのだろうけど
今の俺にはとても残酷に思えた。
「お前が前に居たトコ、雪積もる?」
「いや…そこまでじゃないな」
そういえば前に居た所はどうだっただろう?
ココまで感傷的になっただろうか?
きっと疑問に感じるくらいなのだから、
何も感じずに過ごして来たのだろう。
なんでココでだけ?なんて
今更思わない。
理由はわかっていて。
その理由が今隣にいるのだから。
面白そうに手を広げて
落ちてくる雪を掴んでいる陽介を横目で見ながら、
俺の思考はゆらゆらと揺れながら一つ沁み込んだ。
「じゃあ何?雪に何か思い出があるとか?」
「いや…思い出ってほどはないな」
「なんだよ、歯切れ悪ぃな」
「いや…ん…だよな…」
ごめんな…だってお前と離れる想像とかしてしまうと、
自然とこんな風になってしまうように
なってしまったんだ。
ごめん…陽介。
俺、どうしようもないな。
「じゃあさ、陽介、思い出作りしないか?」
「は?雪合戦とか?」
「ああ…それもいいけど」
「????」
校庭の隅に置いてあるベンチを指すと、
陽介は怪訝な顔をして俺を見た。
「ちょっと座って眺めてみないか?」
「それって思い出になるのかよ?」
「うーん…どうかな…俺は嬉しいけど」
なんとか誤魔化そうと、
多弁さを装って、俺は陽介へ
我儘を言った。
陽介は優しいから
こんな唐突な俺の我儘を受け入れてくれる。
ごめん…陽介。
でも少しでも一緒に居たいんだ。
ほんの少しだって、
お前の時間を独り占めしたい。
ダメだな…俺は本当に。
「なぁ…さみぃんだけど…」
「だな…」
「お前もかよ!」
「はは…」
座ったベンチが思ったより冷たかったのか、
陽介は早々に悲鳴を上げて俺に抗議し始めた。
その様子も楽しくて、
俺は自然と笑ってしまう。
お互いから漏れる白い息が
嘘みたいに綺麗に見えて、
まるで世界に俺たちだけみたいな
錯覚さえ感じた。
「これさ、積もったらみんなで雪合戦とかするか?」
「おお!いいなー!しよう!しよう!」
積もったら…そうだな…積もったらしよう?
そして、ひとつひとつ時間を重ねて
俺はお前から離れる決心をしよう。
お前が困ってしまわない様に。
ひっそりと、誰にも気づかれずに
消えてしまおう。
お前がくれた思い出に
捕まれて…囚われて動けなくなる前に
俺は跡形も無く消えてしまおう。
それこそ、このうたかたの雪の様に。
「お前さ、時々掴みどころってヤツ無いよな」
「そう…か?」
「ねぇよ…」
「そうか…」
驚いた。
考えていたことがバレてしまったのかと
一瞬慌てたが、先程のソレは陽介の独り言の様で。
でも俺はその言葉ひとつに
酷く揺さぶられた。
掴まれてしまったらどうなるんだろう?
交わしてきた言葉や思いに、
俺がお前に掴まれてしまったら
俺はどうなってしまうんだろう…
怖いよ…陽介…
手放そうとしたものに、囚われてしまいそうで…
諦めてしまおうとしたものが、惜しくて怖い。
怖くて仕方ない…
なのに、いつの間にか
俺の手は陽介へと差し出されて。
俺自身が驚く程に、
俺の目は、まっすぐに陽介を見ていた。
「掴みたいか?」
「…………」
何をしているんだ?俺は。
掴まれてしまったら、
もう戻れなくなる。
そんな予感がする。
怖い…怖いよ…
陽介…
「掴んでいいのか?」
「え?」
「いいのか?って聞いてんだ」
聞いたことの無いくらいの強い語気。
こんな表情も出来るんだと
俺は陽介に見とれた。
もうそれだけで
俺は動けなくなってしまって
そのまま陽介の動作を見ているだけの
馬鹿みたいな人形に成り下がった。
陽介の手が俺の手を掴むと
自然と肩が震えて、全ての
事柄から目が逸らせなくなって行った。
なぜかその動作だけで酷く救われたような
気持ちになってしまう。
陽介…ごめん…本当にごめん。
でも、そんな所が好きだよ…本当に。
「怖いか?」
「え?」
「怖いか?って聞いてんだ」
「…………」
怖いよ…陽介
でも、怖いより、お前が触れてくれたことや
嬉しい気持ちが先に立つなんて
俺はなんて強欲なんだろう。
陽介が掴んでくれた手が
燃えるように熱くて仕方ない。
雪はまだ止まなくて、
段々とその羽が大きく、
降る量も多くなってきて
視界が段々とお前と俺だけになってくる。
そうしているうちに、
陽介が突然、俺の手の甲を
自分の頬へと付けて来た。
お前の頬の柔らかい感覚に、
肩口が締め付けられるように切なくて痛い。
「さみぃ……お前のせいだ」
「陽介…」
「バカか…俺は………」
自嘲気味に笑った笑顔が痛々しかった。
お前にそんな顔をさせているのは俺なのか?
ごめん…陽介。
なんか今日の俺は謝ってばかりだな。
でも、本当にごめん。
お前が好きだから。
お前が俺の為にするどんな顔も
震えるくらい嬉しくて仕方ないんだ。
だからその表情も大切で仕方ない。
どうしよう?陽介。
もう止められないかもしれない。
「陽介…」
「んだよ…」
「ココ………………学校の校庭なんだけど…いいのか?」
「?!」
陽介が顔を真っ赤にさせて
俺から離れた。
そう、それでいい…
俺が限界を超えて
お前を困らせる前に、俺から離れて。
お前のどんな顔も好きだけど、
お前が困ることだけは嫌だから。
でも…もし許してくれるなら。
もっとと望んでしまってもいいのか?と
錯覚してしまう。
いつかはいなくなる俺が、
こんなことを望むのはきっと悪いことなのだろうけど、
でも、お前だけが俺をこんな風に煽るから。
「お前が欲しいならあげるよ」
「え?」
「いくらでも」
俺が持っているもの全部あげるから。
だから、どうか俺を忘れないで欲しい。
心の片隅にだっていい、
幻だっていいから、どうかお前の傍に居させて。
「ありがとう、陽介。すごい思い出になった」
「……そっか…?」
「ああ…帰ろうか?寒いし」
ずっとこのまま陽介と過ごしたかったけれど、
もうこれ以上我儘は言えないから。
進まないといけないから。
だから、今日はもう終わり。
決心をつけるように、俺が立ち上がると
陽介も一緒に立ち上がった。
「明日、雪合戦だかんな!」
「ああ、約束だな」
「おう!約束だ」
雪合戦か…
それもお前が俺を覚えててくれる
ファクターになるのなら、
俺は喜んでするから。
だから進もう、二人一緒に。
通学路を他愛も無い話しをしながら歩き始めた。
踏みしめる雪の感覚に少し浮き足立ちながら。
今頃になって先程の熱が上がってきた。
陽介の頬が柔らかかったことばかり
思い出して、少しだけいやらしい気持ちになる。
ごめん…陽介。
俺、やっぱり、どうしようもないな。
「陽介のああいう所、俺好きだよ…」
思い出したように
そう言って今日のお礼に
陽介に笑いかけた。
俺を丸ごと救い出してくれるような行為。
お前のとっては何気ないコトだっただろうけど、
俺にとってはそれがとても嬉しいことだったから。
すると、陽介はその様子をぽかんと
鳩が豆鉄砲くらったみたいに見ているから、
なんだか段々意地悪をしたくなってくる。
俺きっと今、悪い顔してるな…
今日はもう少しくらいいいよな?
だって雪が降っていて寒いから…。
もう少しだけ我儘を言わせてくれ。
呆然としたままの陽介を連れて、
堂島家まで辿り着いた。
玄関に触れるとサッシの戸が
冷たい感触を返してきて、
少しだけさっきの熱を冷ましてくれた。
「さっきのお詫びに…少し上がっていくか?」
俺が誘うと、陽介は仕方ないなと言葉では言いつつ、
素直に上がって来てくれた。
明るい声が玄関に心地よく響く。
俺はそれを目を閉じて聞いて、
そしてお前に絶対気づかれないよう
少しだけ切なく、微笑んだ。
好きだよ、陽介。
ずっとその声を聞いていたいくらい。
この後、俺がお前に何を用意しているのか
きっとお前は知らないだろうから。
どうかそのまま、楽しみに待っていて。
Fin
何を用意しているのか、私にも分かりません(笑)
ご想像にお任せします!!(笑)
(投げるな!;)
昨日の陽介バージョンを書いたあとに
悠も書くか?と思って書いた所、
意外と時間が掛ったとゆーか;;なんとゆーか;;
※ちょっと直しましたー;;
楽しんで頂けたら倖い。