Polaris
【君の壊れる音(7)】
お待たせして申し訳ないです;;;
忘れたい程
お前が欲しい
同属嫌悪
な、感じで。
いってらっしゃいませ。
「俺が棄てた?悠への感情?」
ダメだ…何も思い出せない。
あの時、俺が何を思って
お前に向けて何を感じたのか。
鮫川で棄てた、俺の感情は
何を思って揺れたのか。
俺はなんで棄てちまったのか…
いやらしく笑うもう一人のオレを見て
俺は声も出せずに唸った。
棄てたハズのものを取り戻したくて
無い頭で考えてみるけど
やっぱり答えなんて出なかった。
「俺が…お前をそんな風にしたのか…?」
「悠…っ」
俺が考え込んでいると、
悠から声が上がる。
呆然とした表情で悠は俺とシャドウを
交互に見て目を見開いた。
そんな悠を見て、シャドウは
薄く笑うと悠の肩を抱いて頬を寄せて囁いた。
『ああ…そうだよ…悠、お前のせいでこうなったんだ』
「違う!そんなの悠にカンケーねーだろ!!」
『大アリだろ!現にオレ達は分かれちまってるんだし!』
「俺が…俺のせいなのか…」
『ああ…だからさ…悠、責任取ってくれよ
オレをこんなにしたんだからさ…』
大げさなくらいに見える
シャドウの動作をぼんやりと見ながら
まるでうなされるみたいに悠は呟いた。
「陽介…そんなに俺が…」
『ん?ああ…』
「陽介はそんなに俺が嫌いなのか…」
「『は?!』」
悠からの思わぬ言葉に
俺とシャドウが同時に叫ぶ。
な、なんでこの話し運びでそうなんだ?悠…
予想以上の鈍感ボーイだ…っつーか
天然?つーの?これ…
「ち、ちげーって!なんでそうなんだよ!」
「だって忘れたい程、嫌だったんだろ?そんな…俺…っ」
『っ……ははは!!忘れたい程?あー…かもなー…』
途端、我を取り戻したのか
シャドウが乾いた笑いを響かせると
金色の瞳をギラギラさせながら
悠を見た。
『忘れたい程“お前が欲しい”って言ったらどうする?悠?』
「え?…なにを…?」
『苦しくて仕方ないんだ…悠、お前が
何を思っているのか気になって仕方ない』
突然堰を切ったように醜悪な顔で
話し始めるシャドウ。
『お前がどっちを向いてるのか、
お前の中でオレがどんな風に写っているのか、
それが気になって仕方ねーんだ』
「俺?……」
『全部、お前のせいだ…わかるか?オレはお前が…』
「っ…やめろ!やめろ!やめろ!」
途端、俺の中身が破裂して
口が勝手に叫んだ。
次にシャドウが口にする言葉が何もかもを
壊すような予感がしてソレを俺は掻き消すように叫んだ。
シャドウは俺のそんな様子を見て
また嘲笑った。
『っ…あはは!!なんだよ、まだ逃げんのか?』
「違う…っ…そんなんじゃない」
『逃げてんだろ?悠から…でもオレは逃げない』
「逃げる?俺が…悠から?」
俺が何かを手繰り寄せようと思考を漂わせると
それ自体を嫌悪した様にシャドウは歯をむき出しにして叫んだ。
『傷つけたって…殺したって…オレは悠の傍に居る!
誰よりも近くに!傍に居て悠を守る…!だから…っ
本体…お前はもういらない…こんな弱い俺じゃなくて、
嫌なことも受け止められるオレが本体になる』
まるで俺のものだと叫ぶみたいに
悠の髪を掴んで掻きむしる。
悠は驚き体を離そうともがくけど
シャドウ手は悠を掴んで離さない。
それどころか貪るみたいに見つめると
感情をむき出しにして言う。
『そしたら…悠……お前も、きっと全部話してくれる…』
「…っ…そ、それは…」
『傷つけられたっていいんだ!だって悠なら…っ
殴られたって、何されたって…例え殺されたって…悠なら…』
「っ……陽介…っ」
そう言うとシャドウは、感情丸出しだった様子を
隠すみたいに目元を歪ませると
俺へと視線を移して言った。
『それにさ、本体ももうこんなだし…オレと入れ替わった方が
きっと楽になれる…だろ?本体?』
「っ…バカか…っ…勝手に決めつけんな!」
俺はシャドウの言葉を否定しながらも
頭の隅に引っ掛かった昨晩の記憶が気になって仕方ない。
その途端、再び酷い吐き気が襲ってきて
俺は息をするのも難しくなる。
俺が棄てたもの…それが俺を苦しめるのか?
「ゲホ…ゲホ…っ」
「陽介!!」
『ほらほらー無理すんなよー』
せせら笑うようなシャドウに、
悠は顔を歪ませて怒鳴った。
「陽介…違う…俺が勝手に考えているだけなんだ…
だからお前には関係ないっ…」
『それだよ…悠…それがオレたちを苦しめる』
「え?…苦しめる?俺が?」
『強いオレなら、お前はなんでも言ってくれる!頼ってくれる!』
突然気が狂ったかのようにシャドウが
両手を挙げて叫ぶ。
『そして、強いオレがお前を守る!親友として、相棒として…っ』
強い俺。悠を守れる俺。
そんな俺…そう、俺は……
ソレになりたかった。
『オレだけがお前を守れる!
だからコレはもういらない!だろ?悠!!』
俺を指差し、悠へと叫ぶシャドウ。
自分自身から弱いと指差された俺は、
その言葉に息が詰まった様に下を向いてしまう。
俺が弱いから悠が頼ってくれない?
だから何かを隠すのか?
それじゃ、ずっと俺はお前に本当のことを
言ってもらえないじゃないか。
ずっと…隠されたままで…
俺を見ないで俯くお前を
俺はずっと見ているだけなのか?
そんなの……
「悠…っ…」
「陽介…っ…」
アイツは…俺より強くて。
だから、悠は俺よりアイツが……
だったら俺は…俺は…
「俺は…俺は、なんの為にお前の傍にいるんだ?」
「陽…介…?」
唖然とした様子の悠をそのままに、
俺はシャドウの言葉に引きずられるように
悠へと問い掛けた。
「悠…お前…そっちの方が……いいのか?」
「陽介…お前まで何を……っ」
「…っ…そんなヤツ…俺じゃないっ…俺じゃないのにっ…
…お前はそいつがいいのか?!俺よりそいつが!!」
言ってはいけないこと。
判っていた。
でも、俺は…どうしようもない俺は
嫌で嫌で仕方ない。
先程の光景が頭に焼き付いて離れないから。
悠が俺じゃない俺を見て、
俺の名前を呼ぶ。
それが嫌で仕方ない。
俺に向って優しくするみたいに、
お前が…悠が俺じゃない誰かに笑いかける。
それが嫌で嫌で仕方ない。
「俺はここにいる!お前の傍に!
なのに見てもくれないのか?!」
「陽介っ…」
弱い俺はお前に頼られたくて、
お前と対等で在りたくて…
でも、俺自身そんな
御大層な存在じゃないことぐらい判ってた。
でもなりたかった。
お前に頼られる俺に。
「俺は弱いけど、お前を守る権利ぐらいある…だから…っ」
俺自身が弱いから
お前を守れるような強い俺を望んだ。
俺だけが悠を守る権利がある。
そんな風に思いたかった。
俺が守るから…俺だけの悠であって欲しい。
そんな独占欲が全てを潰して台無しにする…
そんな気がした。
だから我慢した…でも…
「俺だけのお前でいて欲しくて…っ」
でも、お前が欲しくて。
だからこそ…嫌で嫌で仕方ない。
お前の傍にいる、“俺”じゃない“オレ”が嫌で嫌で仕方ない。
「なのに…お前は…っ…そっちを見てる…」
俺からお前を奪う、俺じゃない誰かが、
俺じゃない全てが、憎くて憎くて仕方ない。
俺の中に残っていた欠片の様な何かが弾けて、
代わりに生まれた憎悪の感情だけが
俺の意識を振り回した。
「っ…陽介…ダメだ…コイツを受け入れないと…っ!」
「嫌だ!絶対に嫌だ!受け入れない!そいつもお前も…!」
「陽介…っ…」
途端、悠が酷く悲しそうな表情で俺を見た。
その様子にさえ、この時の俺の感情は
怒りにしか変換出来なかった。
だって、俺を受け入れてくれないお前を
どうやって俺に受け入れろって言うんだ。
俺の中の最後の欠片が叫ぶ、
もう何もかも、元には戻らないと。
「なんで俺に隠すんだ!何を隠してるんだよ!!」
「陽介…っ…もう…やめてくれ…っ」
「悠…っ…なんで…言ってくれないんだよ…」
シャドウの言った通りだ。
理由を教えてくれないことに腹を立てたのも。
様子がおかしいことに苛立つのも。
全部、お前が俺に対してしていることが
どんな意味を持つのかが怖くて仕方なかったから。
お前が俺をどういう風に見ているか
知りたくて仕方なかったからだ。
お前が本当は俺のことを
ウザったく思っているんじゃないかって
気になって仕方なかったからだ。
「なんだよ…これっ…なんなんだ教えてくれ、悠…っ」
「陽介……っ…」
お前が欲しい…全部欲しい。
ウザがられたって、お前が欲しい。
欲しい?なんだこれ?
欲しいってなんだ??
わからない…けど…でも。
欲しい。
お前の髪も目も肩も指先も、
言葉も記憶も笑顔も涙も、その仕草も………
その存在が、全部欲しくて仕方ない。
でもなんだろう…この張り付くような恐怖は。
『やっぱな~じゃ…本体…お前、もう終わりってことで』
「な?!止めろ!陽介に何をっ…」
咄嗟に悠が、俺を庇って立ち塞がる。
シャドウはそんな悠を見てニヤリと笑うと
手をパラパラとはためかせて言った。
『悠…お前、今…イザナギ…だよな?』
「え?…まさかっ…悠!逃げろ!!」
『ちょっと痛いぜ?…………………ガルーラ!』
「?!…うわあああぁぁっ!」
「悠…!!」
目の前で吹き飛ばされる悠。
動けない俺は、その長身が叩きつけられる様を
見ているしか出来なかった。
「悠!悠!!…大丈夫か?!悠!!」
『大丈夫だってーオレが後で
ちゃーんと治してやるから…な?悠…』
笑っている“オレ”
悠に平気で手を下せる感覚に理解出来なかった。
なんで悠をそんな風に扱えるんだ?
これが俺なのか?
有り得ない……。
倒れている悠にゆっくりと近寄るシャドウの足元は
なぜかふらついていたが、悠の傍に座り込むと
舐めるようにその姿を見つめた。
「悠に触るな!!」
『はは……っせーな…』
俺が睨み付けると
シャドウは『悠はオレのもの』だとでも
言うようにこちらを見てニヤリと笑って
苦しそうに唸る悠の首筋を
指先で撫で上げた。
『オレ…自分には正直だからさー…』
「やめろ…やめろっ…悠に触るな!!」
「陽介…来るな…っ」
『はは!いいぜー?逃げても?そしたら
オレと悠の二人きりだ…楽しもうか?悠?』
悠へと圧し掛かるシャドウ。
まるで舐めるように悠を見る視線は
卑猥で、独善的で。
コレが俺だなんて…
以前感じた嫌悪感よりも更に酷い感覚が
目の前で展開される。
『オレ…あっちより優しいぜ?悠……』
「っ…何を…す……やめろ…やめっ……」
『ちょっと手荒だったよな…ごめん…でもオレ、お前が……』
悠の胸に手を当てて、ゆっくりと撫で上げる。
動けないでいる悠を押さえ付けて、
その胸元に顔を埋めると嬉しそうに微笑んだ。
官能的なその動作に、俺の中の何かが叫ぶ。
ざわつく嫌悪に、度を超えた怒りがこみ上げて来る。
「やめろやめろやめろ!悠に触るな!
お前なんかいらない!お前なんか!!」
そうだ…コイツがいるから…
だから…俺は…!
混乱する思考の中で
はっきりと理解出来たのは
シャドウに対する殺意だけだった。
『オレもいらねーよ…お前なんか…っ』
血管が切れるくらいの総毛立つ気配に
俺は反射的に立ち上がった。
それに反応したシャドウも飛び上がるように
立ち上がってこちらを見た。
いつの間にか俺の手にはクナイが握られていて
構えたソレが鈍く光って向かい合うシャドウを写す。
シャドウの金色の瞳もソレを捉えて、
憎憎しく睨みつけて来る。
「『八つ裂きにしてやる…!!!!!!』」
お互いを睨みつけて、お互いに叫んだ。
同属嫌悪…そんな生易しい感覚じゃない。
俺はオレ自身を殺したいほど憎悪する感覚に
振り回されながらも、一歩前へと歩み出た。
It continues to the next…
お、お待たせして申し訳ございませんーーー;;;
すみません;;影村さんが結構しゃべってくれるので
切るのが大変;;;;;;(言い訳かい;;)
次々上げて行けたらいいんですが;;
なかなかいやはや;;;(殴)
楽しんで頂けたら倖い。
次回もお付き合い頂けたら倖い。